2021年10月19日、オンラインイベントプラットフォーム「Remo」で「GOTANDA-VALLEY ENGINEER NIGHT」が開催されました。五反田バレーと品川区が共催する、エンジニア向けのイベントです。
第3回となる今回のテーマは「五反田流エンジニアリモートワークについて」。コロナ禍におけるリモートワークの運用方針や試行錯誤、今後の展望まで、五反田バレーに加盟する企業が登壇し、取り組みを語り合いました。イベントの様子をお届けします。
◆「成長過程におけるスタートアップ企業は、リモート×新入社員の受け入れ体制の整備が急務」
freee株式会社・取締役CTOの横路隆さんによるセッションでは、1年半にわたるリモートワーク環境での等身大の試行錯誤と、今後の展望について共有がありました。
freee株式会社 取締役CTO 横路隆さん
「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに、「freee会計」「freee開業」など、統合型経営プラットフォームを開発・提供するfreee株式会社・取締役。
新型コロナウイルスが流行し出したタイミングで、真っ先にフルリモート制を導入した同社。普段の開発業務はもちろん、定時株主総会も全国で2番目に実施するなど、率先してフルリモートで対応してきたと言います。
服装にもあまり気を遣わなくてOKというのもいいですよね(笑)。「これって対面でやる必要ないよね」みたいな業務も徐々にわかってきて、生産性が上がった面も大きかったな、と思います。
一方で、リモートワークによる失敗も。
採用が決まると、新入社員の元にPCが届いて、それを当日までに準備してもらいます。その後オンラインで研修を受けて、チームに配属され、チームメンバーとリモートランチして……といった具合です。
しかし、リモート環境で入社した社員が、会社に馴染みきれず退社してしまう事態が2020年6〜7月くらいに立て続けに起こりました。
「やりすぎ1on1」は、これらの頻度を上げ、チームメンバー全員と実施するというもの。その結果、「チームのことがよくわかりました」という声が増えてきました。
続けて、ミーティングにおける課題も見つかったそう。
適当かつ曖昧な発言をするのが、結構怖い……みたいな。オンラインですと基本的に発言できるのが1人ずつなので、遮るのが怖くて発言できないことも。これだと無意識なコメントが出にくくなってしまいます。
オンラインで行うことで、生産性の上がったミーティングもあったけれど、発散型のブレストに代表されるような抽象度の高い議論や、高度なコミュニケーションが必要なもの、チームビルディングやオンボーディングは、やはり対面のほうが生産性が高いとわかってきました。
そこで、当社が現在導入し始めているのが、「ハイブリッド出社」です。
強制出社でもフルリモートでもなく、目的に応じた出社を推奨していこうと考え、前述のミーティングはもちろん、それぞれの働き方で生産性の高い方法を見つけるために、あえていろいろ試していこうという段階です。
リモートワークとオフィスワークを掛け合わせたハイブリッド出社を推進し始めたfreee。
しかし、ハイブリッド出社にも乗り越えるべき課題が。
そこで、会議室のオンラインミーティング環境を見直しました。そもそも会議室の声が聞こえないという問題があったので、どこにいてもクリアに聞こえるマイクを導入したり、発言者の顔を360度カメラで画像処理してすぐに画面に写し、会議室に複数人がいて、誰が発言してるのかがわかる装置を各会議室に入れてみたりして、オンラインもオフラインもフラットに議論に参加できるよう、環境を整えました。
そもそも会議の時は、オンライン・オフラインを混ぜないことが大事だと考え「一人でもオンラインのメンバーいる場合、全員オンラインで参加したほうがいい」と提案しています。逆に、チームで出社日を決めて、大事なミーティングとかチームビルディングなどを、リモートでやらずに対面でやろうよとも。強制はしないけれど、いずれの方法もできるようにはしています。
また、今後 完全フルリモート希望の エンジニアがどれくらい市場に出てくるのかがまだわかっておらず、僕らが推奨しているハイブリッド出社が、採用にどのくらい関係してくるのか、も課題の一つですね。
◆各社のリモートワークの取り組み
ここからは、freee横路さんがファシリテーターとなり、五反田バレー企業4社によるリモートワークの取り組みについて話すパネルディスカッションを開催。
freee株式会社 金融開発部マネージャー 横田健志さん
受託制作会社、スタートアップでのCTOを経て2018年7月freeeに入社。freeeの金融サービスの開発をリード。現在は今冬リリースの「freeeカードUnlimited」の開発に注力。
セーフィー株式会社 プロダクト開発部 モバイルチームリーダー池田和志さん
2014年7月に設立、来季が8期目のスタートアップ。従業員数は200名ほど。クラウド録画のプラットフォームの開発を行う。池田さんは、コロナ禍にエンジニアリングマネージャーとしてリモートで入社。
株式会社ユニラボ システム部 部長 田中雅和さん
「受発注を変革するインフラを創る」をビジョンに掲げ、BtoB受発注プラットホーム「アイミツ」のほか、テーマを変えた6つのブランドで拡大中。従業員もこの2年で数倍に。リモート環境下における生産性と社内文化のバランスが重要課題。
株式会社Synamon エンジニアリングマネージャー 佐藤巧実さん
バーチャルリアリティやARの事業を行う企業。佐藤さんはチームや組織づくりの基盤づくりから、プロジェクトの企画提案、2008年からエンジニアとしてキャリアをスタート。佐藤さんは2021年7月、コロナ禍の転職で入社し、マネジメント全般に携わる。
フルリモートか、フル出社か、はたまたハイブリッドか? まず初めに、現在のリモートワークの取り入れ方について、各社ごとに共有し合いました。
私は4人ほどが属する3つのチームをマネジメントしています。業務の内容などに合わせて、チームごとに出社とリモートを使い分けています。どうやって心理的安全性を担保するか、自分もマネージャーとして試行錯誤している最中です。
私のチームでは出社・リモート縛りなく自由にしていて、始業と終業の連絡はSlackを使い、朝会はオンラインでやって、それ以外の会議は、できるときは対面で、と柔軟に対応できるようにしています。
会社が今かなり急激に事業を拡大していて、2年前は従業員数が60人くらいだったところから、現在200人くらいになりました。さらに来月、10人くらい入社してきます。新しい人の名前と顔を覚えるのが限界に来ているくらいです(笑)。マスクのせいで、顔を覚えづらいというのもありますね。
当社は、新型コロナウイルスが流行する前までは、「毎週、社長が鍋を作って社員がワイワイ楽しむ」といったアットホーム感をすごく大事にしていたので、このような社内文化と生産性のバランスが、重要な議論のポイントになっています。
ちなみに、VRオフィスのようなプロダクトも開発し、社内でも活用しています。しかし現状だと、メリット・デメリットがありますね。
わかりやすいデメリットは、ヘッドセットを常時被っているのが難しい。日常的にはSlackや、Remoのような二次元空間のバーチャルオフィスを使ってやりとりし、ミーティングはVRで、といった感じで、適材適所でツールを使っています。
VRミーティングは、一般的なオンラインミーティングに比べると空気感が共有しやすかったり、一体感が上がったりするので、早く一般的に使えるところまで普及すればいいなと思っています。
自分の仕事や会社とリモートワークの相性はどう?
普段の業務であっても、初めのうちは勝手がわからなかったリモート環境。freeeの横田さんは、特にリモート下での新規のプロジェクトの立ち上げに苦戦したといいます。
「これはまずい」と思って、事業を理解するためのミーティングや、道標や目標づくりといったことを積極的にインプットして、メンバーの腹落ち感を上げるための努力をしました。
自分はマネージャーの立場なので、リソース的にも一つのチームに深く関わるのはなかなか難しいのですが、新しいチームができた場合は、中に積極的に入っていって、朝会をしっかりやったり、時には「今日は金曜日だね。良い週末を迎えられるようにがんばろう!」と前向きな声かけをしたりと、ペースづくりを率先してやりました。そうすることでなんとか、リモートでもプロジェクトが正常に回り出すようになりましたね。
新規のプロジェクトをリモートでやる場合は、「自分たちが携わっているものは、会社としても力を入れているプロダクトなんだ」と、対面でのインプット以上に共有していくのが大事かなと思います。熱量は伝染すると思うので、冷静さよりもパッションを持って伝えるようにしました。
一方、コロナ禍で入社した佐藤さんは、思った以上に早く会社の事業や文化になじめたといいます。
週1回はミーティングで社員が集まるんですけど、当社のバリューに関わる行動を発表してもらったり、今週いい動きをしてくれた人を褒めるみたいな文化があったりして、情報がオープンなので、入った当初からすぐに会社の文化になじめました。
同じく、コロナ禍でのリモート入社でマネージャーからスタートしたセーフィーの池田さんも、メンバーとの意思の共有や相互理解に力を入れています。
入社オンボーディング時は出社することが多かったので、その場で出社しているメンバーがいれば、積極的に話しかけたり、個別で対面できなかった場合は、バーチャルオフィス上で話しかけたり。雑談しつつ、コミュニケーションを取りながら、お互いを知るための努力はしましたね。
なかなか対面の機会が設けられない状況下で、人となりや熱量を伝える難しさは、どの組織でも課題になっているようです。ユニラボでは、とある「熱量の伝え方」に社員からの反響があったといいます。
リモート環境になってから、いい意味で叱ったり、注意したりすることが減っている気がするんですよね。そういう中であえて締まるような言葉とか、笑顔が溢れるような言葉とかを入れてみる。これは効果がありました。
今後のリモートワーク体制はどうする?
今後の課題や方針を話し合う中で、キーワードとして上がったのが「社員同士のタッチポイントの設計」でした。
たとえば、リモート下でオンラインミーティングをすると、みんな終了時間来たら解散してしまって、雑談は発生しにくいじゃないですか。やっぱり、オフィスなど対面の環境にいれば、偶発的なコミュニケーションっていうのは生まれやすいと思います。そういう意味で、まだまだ対面というのは必要なのかなと。
freeeでは、社内SNSで「○年生まれ集まれ!」みたいなルームをつくるなど、社員同士での共通項を見つける手段を探っています。やっぱり、知り合いを増やしておくことは重要だなと思うので、そういったものがいずれオンラインでもしっかりできるようになるといいですよね。
先ほどもお話しした通り、当社は「社員はファミリー」といった文化を重視したい気持ちが先にあります。この文化を守るために、現状は週4日出社して社員が顔を合わせる環境で運用していますが、「こうすればうちの文化は築ける」というのを言語化していくことで、結果的には「週何日出社する」とか、そういう概念は無くなっていくんじゃないかなと考えています。
コロナ禍に採用した人は活躍してくれている?
リモート下での新入社員に対するアプローチは、どの企業も工夫をしている様子。意識しているポイントを共有し合いました。
メンターが最初は対面でしっかり伝えていくことをやっているので、今年から入ったメンバーはちゃんとキャッチアップしてくれているかなと。
メンターは業務上関わりのないが職種としては同じ人が担当し、主に心理的安全性確保を目的としてサポートします。一方で世話役には業務そのものにしっかり伴走してもらいます。
この「世話役」を、仕事のできる強めのメンバーにすると、より効果的でした。既存のメンバーに「新人がうまくいくかはあなたにかかっている」とコミットを明確しておくと、新人の開花が早かったと思いますね。新人に対しても「特定のメンバーとしっかりやりとりしようね」と設定してあげれば、リモートでもそんなに障壁にはならなかったようです。
「コミュニケーションが取れるかどうか」の判断材料として、対面で体験入社をしてもらっています。しっかり時間をとってグループワークなどをして、チーム間でのコミュニケーションとか関わり方や、発見や提案を積極的にしてくれるかなど、深めにみるようにしています。
リモート環境下で見えてきた課題や工夫を掘り下げるうち、リモートという働き方を取り入れつつも「社員同士の繋がり、心理的安全性の重要性」といった、肌触りのある交流が重要だということが見えてきました。
各社の取り組みを取り入れてみたい、と言う声も上がるなか、イベントは幕を閉じました。今後も「GOTANDA VALLEY ENGINEER NIGHT」で生まれる新たな示唆に期待です!
※ 記事の内容は、2021年10月イベント当時のものです。
(文:守屋和音/ノオト 編集:杉山大祐/ノオト)