2022年9月29日に、福井県主催のオンラインイベント「IT×地方創生Meet Up 〜首都圏から福井へ、進出の可能性を探る〜」が開催されました。
コロナ禍で働き方が多様化した現在、テレワークの推進や副業解禁など、企業側も変化を求められてきています。場所に縛られずに働けるようになり、本社を首都圏から地方に移転したいと考える経営者もいるのではないでしょうか。
今回は「企業の地方進出」をテーマに、五反田バレー参画企業のコグラフ・森さんと福井県で人材紹介・人材派遣会社を経営するキャリアネットワーク・中山さんがディスカッションを行いました。イベントの様子をお届けします。
登壇者の紹介
コグラフ株式会社 代表取締役・森善隆さん
国内独立系ソフトハウス、大手インターネットサービス企業を経て、スタートアップ企業リアルコムに参画したのち、2010年9月にコグラフ株式会社を設立。同代表取締役に就任。五反田でより豊かな未来を創っていくことを目指した一般社団法人「五反田バレー」に参画。
株式会社キャリアネットワーク 代表取締役・中山喜雄さん
企業営業職を経て、酒類製品の営業職に従事した経験を持つ。のちに福井県内、求人数No.1の人材紹介・人材派遣会社、株式会社キャリアネットワークを創業。福井県での人材紹介・派遣のキャリアコンサルタント職に従事、代表取締役に就任。
利倉加奈子さん
当イベントの司会進行役。東京都港区で新規事業開発の会社を経営。Web3、DXに関するサービス開発やセミナーを開催している。
IT企業・コグラフ、人材ビジネス企業・キャリアネットワークの紹介
利倉 まずは、株式会社コグラフ代表の森さんから自社紹介をお願いします。
森 当社はソフトウェア解析、データ分析、プロダクト展開を行っているIT企業です。ご縁をいただいてから、福井県に定期的に訪問しております。
コグラフ 森善隆さん
森 弊社製品のAI電話番「マヤイ」は、人に代わって、電話の一次応対をAIが行うサービスです。外線電話をマヤイ(AI)がまず受け取り、その用件を文章化してチャットやメールで契約企業へ通知する。それにより契約企業のスタッフ、社員は必要な電話だけに対応できるようになります。
「マヤイ」利用の流れ
利倉 ありがとうございます。続いて、株式会社キャリアネットワーク代表取締役・中山さんからも自社紹介をお願いいたします。
キャリアネットワーク 中山喜雄さん
中山 福井県福井市に本社を置いている、キャリアネットワークの中山です。もともと東京で働いておりましたが、リーマンショックがあった2009年に福井にUターンをして、人材ビジネスの会社を創業しました。事業内容は労働者派遣や有料職業紹介、人材紹介などです。
キャリアネットワークの事業内容
中山 現在私たちは、各専門職の高度人材を都市部から地方に還流する国家プロジェクトに参画をしております。東京一極集中問題を解決するために、優秀な人材を地方に還流させて、地方創生を促すプロジェクトです。内閣府が主導になり、各都道府県にプロフェッショナル人材戦略拠点がございます。実績として、昨年度の参画事業者30社中、地元の福井県に本社を置く人材会社の中では、成約数1位を取っております。
福井県はオフィスワークの求人が少ない? IT人材の育成も課題に
利倉 ありがとうございます。では、中山さんから福井県の特性に合わせた人材獲得についてお話を聞かせていただけますか?
福井県は15歳〜64歳までの生産年齢人口の有業率が日本一
中山 福井県は全国最高の有業率で、最近は私たちの会社に80代の求職者から応募が来ることもあるんです。
利倉 80代の方から! それはびっくりですね。
中山 当社の場合は完全Webエントリー制なので、そういった操作もできるスマホユーザーというのも驚きですよね。続いて、福井県は求人倍率が日本一で売り手市場の状態です。しかし失業者は一定数いらっしゃいます。そういった方々はどうしても離転職が多く、なかなか企業の本採用に繋がらない。失業者がいても、事業者が採用したい人材像とマッチしていないという実態があります。
つまり、事業者にとって採用困難な状況なのです。その課題をどう解決していくか。ポイントは3つだと考えています。1つ目は、職種横断型の労働移動の推進です。
求人倍率は建築・土木で15.22倍、介護・医療で3.31倍とバラつきが目立つ
利倉 職種によって、求人倍率に差がありますね。
中山 はい。建設や介護福祉の求人は多いのですが、求職者の希望であるオフィスワークは少ないんです。福井県はすでに働いている方ばかりなので、在職中のキャリアチェンジ、つまり転職予備軍を囲い込む必要があると考えています。
Job総研による2022年7月に発表した資料(イベント時のスライドから抜粋)
中山 次に、副業・複業人材の獲得です。全国のアンケートで、副業・兼業をしていると回答した方が21.6%、していないと回答した方が78.4%とまだ副業・兼業は一般的ではありません。
利倉 意外と少ないという印象を受けました。
中山 「今後、副業・兼業をしたいと思いますか?」と質問をした際、したいと思うと答えた方は89.8%。私はそこにポテンシャルがあると見ています。福井県は独立資本で小規模経営されている事業者が多く、人口10万人当たりの社長輩出率がずっと1位なんです。現在あまり景気が良くないため、そういう個人事業主の方が副業・兼業したいというご相談も増えています。
利倉 自分が持っているスキルを活かして、ということですね。
中山 その通りです。3つ目は、IT未経験者の教育体制の確保です。IT業界に興味があるけれど、スキルを身につけるのが大変なのではないかと思われている。そこをうまく解決していくのが重要です。そこで、無料IT研修と就職支援をパックにしたシステムを当社で作りました。
開発プログラマーの研修とインフラエンジニアの研修という2つのコースを用意
利倉 こちらのコースは、すべてオンラインで完結できるようになっているのですか?
中山 そうですね。通いではなく、どこからでも学べるシステムになっております。
森 地域の課題や状況を理解されながら、システム化に取り組まれているのがすごいですね。
企業が福井県に進出するメリットは? 実は幸福度ナンバー1位というデータも
利倉 オンラインで「福井県の印象を教えてください。また、福井県へ進出するメリットは何ですか?」と質問が来ていました。森さん、いかがですか?
森 やはり福井県の方々の人柄に尽きるでしょう。我々も IT業界とは言いつつ、人が考えて作って、人に提供するというモノ作りの世界なので。地域にどういう方々がいらっしゃって、どういう方々が活躍されているのかを拝見する機会をいただいて、どっぷり福井県にハマりました。
利倉 温かみがありますよね。あとは女性目線でいうと、DINKs(ディンクス:共働きで子どもを意識的に持たない夫婦)と呼ばれる方たちがたくさん働いていたり、いろんな会社が女性雇用の施策をやっていたり、そういう環境作りをするのが上手です。だから福井県って幸福度ナンバー1の県なのかな、と。
中山 そうですね。「全47都道府県幸福度ランキング2022年版」(一般財団法人日本総合研究所編)において、福井県が総合1位となりました。こうやって注目を集めるのは非常に嬉しいですし、県民としても誇りです。
※福井県は2014年版、2016年版、2018年版、2020年版に続き5回連続で1位を獲得している
福井県が考える企業誘致の施策 2024年春の北陸新幹線開通も追い風に
利倉 今まで私たち3人が素晴らしいと褒めてきた福井県ですが、少しお堅い話も伺いたいなと。ここからは、福井県の方から県の支援制度について説明をお願いします。
福井県産業労働部企業誘致課の方々
福井県産業労働部企業誘致課 福井県からはオフィス進出の際の支援制度についてお話しします。これまで福井県は製造業を中心とした工場の企業誘致を進めてきましたが、テレワークの浸透で地方に関心を持つ都市圏の若者が増加しました。そこで企業誘致の考え方を量から質に転換し、勤務条件や職場環境、若者や女性が働きやすいような魅力的な企業の誘致を推進しています。
最近でも、東京本社のIT企業3社が新たに福井県内にオフィスを開設しました。交付金を活用しながら、サテライトオフィスの整備などに対しても支援を行っています。
さらに、昨年度から小規模なオフィスを開設する際の初期費用や運営費用に対するオフィス誘致補助金を創設しました。対象オフィスは、IT関連・企画・経営管理・デザイン・コンサルなど事務系の事業を行う事務所・事業所、対象経費は土地建物取得費や改修経費、賃借料などです。補助率は通信回線料が100%、それ以外は50%で、補助上限は1,500万円となります。
福井県オフィス誘致の補助金
誘致活動を進める中で、「IT推進のまち鯖江」と呼ばれる鯖江市を中心に、東京や大阪、京都に本社を有するIT企業がオフィスを県内に開設しています。
2024年春に北陸新幹線福井・敦賀が開通すると、東京から福井まで1本で行けるようになります。首都圏との距離がさらに近くなるので、福井県としてもチャンスと捉えています。オフィス誘致は高い付加価値を生むので、若者や女性が働きやすい、給与が都会並みといった企業をどんどん福井県に呼び込んでいければと思います。
本社移転の第一歩として、まずはエンジニアの兼業・副業から
利倉 さて、本日は福井県の人材事情や企業誘致の施策などをお伺いしてきました。東京でIT企業を経営している森さん、福井県に本社を移転してみてはどうでしょうか?
森 本社の移転は企業にとってハードルが高いことですが、ぜひ検討したいですね。関東圏のみならず、社会情勢を受けて兼業・副業されているエンジニアの方はとても多いので、まずはやりやすい形で始めていくのがよいな、と。そうした取り組みから、福井県の良さが全国に広まっていくといいなと思います。
利倉 「『首都圏』から『福井』へ進出の可能性を探る」、これ逆もありですよね。ITのことも含めて、五反田に来てもらってもいいですし、コミュニケーションを取っていきたいと思われた方も多いのではないでしょうか。
福井県の人材採用や育成、県が行う支援施策について知れた今回のイベント。首都圏から地方へオフィス移転・サテライトオフィス展開などを考えている方は、ぜひ福井県を検討されてみてはいかがでしょうか。
取材・文/矢内あや 編集/ノオト