▲写真提供=品川経済新聞
思わず二度見してしまいそうな、強烈なインパクトを放っているこちらの掲示物。JR五反田駅構内に不定期に掲出されているポスターです。同駅では駅員さんが手作りの毛筆ポスターをたびたび作成しており、その存在感の強さからネット上で話題になったこともありました。
取り組みが始まってからしばらく経ち、今やJR五反田駅恒例のものとなった毛筆ポスター。過去の作品の一部を振り返るとともに、始まったきっかけや掲出の時期など気になるポイントについて、JR東日本首都圏本部 広報ユニットの方に取材しました。
あの時このポスター
時代をまたいだ10連休
▲写真提供=品川経済新聞
2019年4月30日に平成は終わりを迎え、5月1日から令和が始まりました。元号が切り替わる歴史的な時期である2019年4月〜5月ごろにかけて掲出されていたポスターがこちら。大型連休の混雑回避のため、早めの切符の受け取りを呼びかける内容です。達筆ですね。
ちなみにJR五反田駅の開業は1911(明治44)年なので、明治、大正、昭和、平成、令和と5つの時代を見守り続けていることになります。
▲写真提供=品川経済新聞
突然のフランス語です。毛筆なのに横書き、しかも外国語、そしてフランス語。自由です。翻訳ツールにかけてみたところ、「五反田駅で切符は買えますか? 東京駅はすごい混雑なので!」といったようなことが書いてありました。大型連休に際し東京駅は特に混み合うため、五反田駅で切符を買おうと呼びかけます。一瞬エッフェル塔かと思いましたが、おそらく東京タワーのイラスト付き。
▲写真提供=品川経済新聞
ポスターの掲出場所は基本的に、ホームから改札に向かう階段の壁。この時のポスター10点は、五反田駅で働く社員12名で作成したそうです。真っ白な紙に手書きの毛筆文字がドーンと書かれたポスターが並ぶ光景はインパクト抜群。ストレートなメッセージもわかりやすく、ついつい全て読んでしまいそうです。
「『10連休』 大好きな大好きな大好きなあなたの ふるさと行きの切符は えきねっとで予約」
文字の雰囲気も相まって、なんとも沁み入りますね。
定期券をとにかく早めに買ってほしいという強い気持ち
▲写真提供=品川経済新聞
毎年10月1日前後は、定期券の購入や継続の手続きで駅が混み合います。さらに2019年は、10月1日から消費税率が改定されました。9月末に近づくにつれ混雑が集中することが予想されていたため、混雑回避のため当時はとにかく早めに定期券を購入することを促すポスターが作られました。
▲写真提供=品川経済新聞
シンプル故に際立つ「混」の隣には、2019年度の混雑具合を予想したと思われるグラフが。ついに数式やグラフまで毛筆で……!
▲写真提供=品川経済新聞
「暑い夏 おつかれSummerでした。お客さま〜9月下旬はみどりの窓口は混みます。」
毎朝「仕事が始まってしまう……」と憂鬱な出勤時や疲労困憊の業務後、重い足取りで階段を上り下りしている時にふと横を見てこれがあったら、ちょっと笑っちゃうかもしれません。
「『なつぞら』〜『あきぞら』へ」は、当時放送していた朝ドラにかけた文言でしょうか。時事ネタも取り込んでいくスタイルなんですね。
紙いっぱいに力強い文字で書かれたものから混雑具合をグラフでスマートに表したもの、「おつかれSummerでした」と見た人をフフッとさせるものまで、様々なスタイルのポスターで「早めに買って」という強い気持ちを伝えてきます。それがズラッと10点並んださまは、「圧がすごい」とツイッターに写真が掲載され話題になりました。
おめでとう!JR五反田駅開業110周年
▲写真提供=品川経済新聞
JR五反田駅の開業は1911(明治44)年の10月15日。記念すべき開業110周年となる2021年の10月ごろには、五反田を走った車両たちのイラストが描かれたスペシャルなポスターが登場しました。
その他には「五反田駅 百十歳のお誕生日おめでとう」とお祝いする内容や、「五反田のみなさんコンニチハー110周年でございます」という文章の下に小さく「ツッタカターツッタカターツッタカタッタッター」と書かれた、北海道の某バラエティ番組の有名なセリフをもじったものもありました。
ちなみに、2022年の10月ごろには鉄道開業150年を記念する「JR東日本パス」を五反田で受け取るよう勧めるポスターが掲出されており、そのうちの1枚が「五反田駅で我々は今からあの券売機でJR東日本パスを受け取るって言ってるんだ」という内容でした。これはもう確実に番組ファンの駅員さんがいますね。とにかく、自由に楽しく作成していることが伝わってきます。
混雑する時期やアニバーサリー以外にポスターが出現することも。ステイホームが求められていた2020年4月ごろには、「油断大敵」「もうちょこっとがまんですね」「落ち着いたらまた乗りに来て下さい」など外出自粛を呼びかけるポスターが、2021年のお正月には「謹賀新年 寒い日が続きますがご自愛ください」「自分を信じて 謹賀新年 迷わずゆけ」といった季節のあいさつのポスターが掲出されていました。もはや駅員さんからのちょっとした手紙です。
なぜ手作りポスター? JR東日本にいろいろ聞いてみた
これまでのポスターをいくつか振り返り、やはり気になるのがポスターの作成が始まったきっかけや掲出の時期、突然のフランス語の理由など。JR東日本首都圏本部 広報ユニットの担当者に質問してみました。
――毛筆ポスターの作成は何を目的に始まったのでしょうか?
大型連休で東京駅などのターミナル駅の窓口は大変混雑するため、事前に五反田駅で切符を購入していただけるようご案内することを目的に始めました。
――では、取り組みはいつからどのように始まりましたか?
2017年から、五反田駅の社員の発案によって始まりました。
――毛筆ポスターは何名で作っていますか?
人数は決まっていません。掲出する枚数により、希望者や達筆な社員などが集まって作成しています。
――毛筆ポスターは文章だけでなく外国語やイラストなどバラエティ豊かですが、内容はどのように決めているのでしょうか?
文章や絵は社員でアイデアを出し合って決めています。駅で仕事をしている様々な社員がそれぞれ得意なことを生かし、自由に作成しています。フランス語のものは、フランスへ留学していたことがある社員がその経験を生かして作りました。
――ポスターを掲出する時期は決まっているのでしょうか?
時期が決まっているわけではありませんが、混雑が予想される時期にタイムリーな情報をお届けしています。
――SNSで話題になったことについてどう思われましたか? また、JR五反田駅の利用者へメッセージがあればお願いいたします。
反響を頂いたことに五反田駅社員一同驚いております。引き続きご愛願のほどよろしくお願いいたします。
毛筆ポスターで、なんだか駅が身近に
▲ソーシャルディスタンスを取るアマビエ。マスクは実物を直接使ったストロングスタイル、そして言語はドイツ語(写真提供=品川経済新聞)
混雑を緩和したいという実用的な目的で2017年に始まったJR五反田駅の毛筆ポスターは、今や同駅おなじみのものとなりました。手作りのポスターが飾られていることで「なんだかおもしろい駅だな」と感じ、普段当たり前のように使っている駅、そしてそこで働いている駅員さんの存在が少し身近になったような気がします。今後はいつどんな内容のものが掲出されるのか、階段を上り下りする時に気にかけてみるのも楽しいかもしれませんね。
ちなみに、毛筆ポスターの作成を発案した駅員さんは異動されていたため、お話を伺えませんでした。「どうして毛筆なんだ」という最大の謎は、謎のままです。
取材・文:阿部夏美 編集:ノオト