五反田バレーの参画企業である株式会社KAMADOは、2022年4月に「OUR ART PROJECT BY KAMADO」を本格スタートしました。
当プロジェクトの目的は、法人や個人がアートにふれる機会を創ることと、アーティストや作家を支援すること。プロジェクトを立ち上げたきっかけや本格スタートまでの道のりについて、同社の代表取締役・柿内奈緒美さんにお話を聞きました!
柿内奈緒美さん
株式会社KAMADO 代表取締役/KAMADO編集長
岡山県生まれ。ジョージクリエイティブカンパニーなど数社を経て、ニューヨークのカルチャーを発信するウェブマガジン「HEAPS」にて勤務。のち、個人事業主となり同親会社の新事業として「PLART STORY」創刊編集長に就任。2019年8月より「KAMADO」を運営。2020年6月、株式会社KAMADOを設立、代表取締役に就任。表現のアイデンティティを通じて人が繋がり認め合える文化の土壌を創るため、現代の表現であるアート、時代の表現である工芸・民芸・モノづくりを軸に発信。
「OUR ART PROJECT BY KAMADO」とは?
――はじめに、株式会社KAMADOについて教えてください。
2020年に創業した会社で、現代アートや伝統工芸、民藝、モノづくりの情報を発信するメディア「KAMADO」の運営と、今回取り上げていただく「OUR ART PROJECT BY KAMADO」というプロジェクトの運営をしています。
―― 「OUR ART PROJECT BY KAMADO」はどのようなプロジェクトですか?
「アート・文化にふれる機会をみんなで創造する」をキャッチコピーに掲げ、企業・連携団体・アーティスト・読者の4者が1つの表現をきっかけにつながる文化を生み出すプロジェクトです。
企業が連携団体(他の地域の行政、大学など)に寄付をして、連携団体に収められた寄付金を当社が委託先として依頼を受け、「KAMADO」に掲載するアーティストインタビュー記事の制作費や、メディア内で提供している「FUMI」「KUJI」(※)というサービスの運用費に充てます。
(※)
FUMI……アーティストのサポートにつながる数百円からのメッセージ購読サービス
KUJI……アートやプレゼントがもらえるかもしれない無料で参加できるオープン抽選
メディアを通じて若手アーティストの想いや作品を届けることで、読者はアートに触れる機会が増え、さらに若手アーティストは情報発信や支援金を受け取るなどのメリットを得られます。そのように、企業の寄付金が最終的にアート業界の若手アーティストを支える仕組みになっているのです。
OUR ART PROJECT BY KAMADO一連の流れ
――若手アーティストにとっては素晴らしい取り組みですね。一方で、企業側のメリットがなければ寄付に至らず、仕組みが回らないのでは?
企業のメリットとしては、行政との連携プロジェクトの場合は企業版ふるさと納税を活用し寄付控除を、NPO法人の場合は助成認定制度を活用し、税制優遇が期待できる点です。加えて、文化支援をしたという実績にもなりますし、読者やアーティストのファンが企業に関心を持つことも期待できるため、企業側にも十分な利益があると考えています。
アート業界は課題だらけ? プロジェクト立ち上げの経緯
―― 「OUR ART PROJECT BY KAMADO」立ち上げのきっかけとは?
前職時代にアートのウェブマガジンで編集長をしていました。100名以上のアート業界、アーティストの方にインタビューをしていたのですが、そこで見えてきたのがアート業界にあるたくさんの課題でした。例えば、アーティストが育つ基盤がない、アート作品を買う文化が日本にない、海外に作品を売りたくても英語ができないとか。そういった話を聞く中でアーティスト支援をしたいという気持ちが芽生えました。
その後、会社を辞めて「KAMADO」というメディアを2019年に立ち上げて2020年に法人化しました。でも自社の力だけでは大きなムーブメントを起こすのは難しい。他の企業にも参加してもらえれば、アーティスト支援の輪がもっと広げられるんじゃないかと思ったんです。企業が参加しやすい仕組みとは何かと考えたときに、寄付をするというアイデアに行き着きました。
――プロジェクト開始までの道のりは順調だったのでしょうか?
まずこれまでに無い仕組みを実行するのに事例がないと理解してもらいづらく、寄付先となる連携団体を探すことに苦労しました。そんな中でも、数多くの若手アーティストとの関わりがある取手アートプロジェクトオフィスさん(東京藝術大学、取手市、市民の参加するNPO法人)と、アート文化を通じ、街づくりや関係人口の創出に取り組む栃木県足利市さんが興味をもってくださり、連携団体として参画してくださいました。
地域とアートはどう関わっていけるのか
――アートや文化支援の面で、五反田や品川エリアにはどのような印象がありますか。
五反田には、小さいギャラリーはありますがアート文化が根付いているとはまだ言いにくいと思います。品川エリアで見てみると、寺田倉庫さんがさまざまな展示会を開いているので、アートに触れる機会はあるのではないでしょうか。
2022年8月に品川区にオフィスを構える三菱鉛筆株式会社さんが、当社の「OUR ART PROJECT BY KAMADO」を導入してくださいました。三菱鉛筆さんの寄付金は、現代アーティスト熊倉涼子さんのインタビュー記事(他サイトに遷移)の制作費や、「KUJI」で読者へ譲渡される作品の制作費に充てられます。こうした企業と若手アーティストの接点を作る事例を、今後五反田や品川エリアで増やしていきたいですね。
KAMADOに掲載された熊倉涼子さんのインタビュー記事
――実際に、自治体や地域がアーティスト支援をする事例はどのようなものがあるのでしょうか?
栃木県足利市さんのように、「OUR ART PROJECT BY KAMADO」に参画して企業とアーティストのハブになるという支援の方法もありますし、アーティストを誘致して芸術祭を開催する自治体もかなり増えてきました。
特に2022年は豊作で、有名なものでは瀬戸内国際芸術祭(岡山県、香川県)、あいち2022(愛知県)、Reborn-Art Festival(宮城県)などが開催されています。自治体は観光客の増加が見込めますし、アーティストは参加することで作品を展示する場を得ることができる。両者にとってメリットのある取り組みですが、近年は芸術祭が多くなり過ぎている印象です。
海外では、自治体や企業はもちろん、個人がアーティスト支援をする事例も多くあります。例えば、自宅の一角を若手アーティストにアトリエとして貸し出し、そこでの生活費や制作費をサポートする人もいます。アーティストは経済面を気にせず創作に没頭できますし、支援者は「自分の支援によって完成した作品」という唯一無二のものを所有することができます。
多様性が叫ばれる今、アートに触れることが重要なわけ
――アートにふれる機会が増え、誰もがアートと関わることのできる時代になったら、私たちの暮らしはどのように変化すると思いますか?
アートに触れることで、人は想像力が刺激されたり、こんな表現があってもいいという寛容さが身についたり、多角的に物事を見る視点を持てたりするようになります。その経験は、一人ひとりの生き方や表現を大切にしましょう、という現代の風潮に生きてくると思っています。
日本は先進国の中でも、アートの市場規模が小さく、寄付に対する意識も低いのが現状です。「OUR ART PROJECT BY KAMADO」を通じて、アート作品に触れる喜び、アーティストだけでなく誰かの想いを支援する喜びをもっと多くの方が体験できる社会にしていきたいですね。
撮影協力:SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)
取材・文・編集:ノオト