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「CNNに目をつけられ、Appleが調べにやってきた」82歳のプログラマーのシンデレラストーリー

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Excelのマスに色を塗って、日本古来の文様を描きうちわやブックカバーを作っていた「パソコン手芸」の達人、若宮正子さん。

2017年2月に公開したiPhoneアプリ「hinadan(ひなだん)」がCNNに取り上げられ、6月にはAppleの主催する開発者イベントWWDCの基調講演にゲスト出演。そして2018年2月、ニューヨークの国連本部の会議へも招かれ、堂々と英語でスピーチを行った。あれよあれよという間に、シンデレラのような出来事が若宮さんに起こっている。

国連でキーノートスピーチを行ったiPhoneアプリ開発者の若宮正子さん

パソコンに出会ったのは退職後であるという若宮さん。遅いスタートのように思えるが、何が彼女の原動力になっているのか。これまでのITとの関わりとシニアが抱えるIT問題について話を伺った。

退職金でパソコンを購入。NIFTY-Serveでインターネットの世界へ

――初めてパソコンを買ったのはいつ頃ですか?

パソコンを買ったのは、40年以上勤めていた銀行の定年が近づいたときです。退職金が出るので、もの好きな私はパソコンを買ってみようと思ったの。20年以上前の、まだ家庭にはパソコンがほとんどない頃で、すごく高かったですよ。

インターネットも普及していない時代だったので、パソコン通信を楽しんでいました。NIFTY-Serveというパソコン通信で、海外旅行や料理のフォーラム(電子会議室や掲示板の機能を持つテーマ別のコミュニティ)をのぞいていました。その中に、シニアのフォーラム「FMELLOW(エフメロウ)」があったんです。今は「メロウ倶楽部」というシニアのインターネットユーザーの交流サイトになって活動しています。

メロウ倶楽部では、「マーチャン」というハンドルネームを使っていました。これが今は私の愛称になっていますね。

――パソコンでは、Excelで絵を描く「エクセルアート」も楽しまれていたようですね

メロウ倶楽部ではいろいろな人と交流できて、とても楽しかったです。シニアにもパソコンは役立つと考えて、自宅でシニア向けのパソコン教室を始めました。そこでExcelを楽しく学ぶために、Excelアートを考案したんです。Excelでのマスに色を塗り、矢絣(やがすり)とか六弥太格子(ろくやたごうし)などの日本古来の文様を描いて、それをプリントしてうちわやブックカバーを作るんです。パソコンを使った手芸ですね。もともとオリジナルのものを作るのが好きだったし、同世代の女性たちも一緒に楽しんでくれました。

若宮さんが作ったExcelアートをあしらったバッグ

WWDCでティム・クックCEOにシニアの課題を訴える

――そして、iPhoneアプリ「hinadan」を開発。Appleが開催する開発者向けイベント「WWDC」への道が開けたと。

2017年2月に「hinadan」の申請をAppleに行い、まもなく公開することができました。それを朝日新聞が取り上げたんですね。そしたら、CNNに見つかっちゃった。

この年齢で女性のゲームアプリ開発者はいないらしいんです。しかも、元プログラマーでもない初心者。CNNからメロウ倶楽部に英文のメールが届いて、2時間以内に回答しろと言われました。そこでGoogle翻訳で訳して読み、こちらもGoogle翻訳した英文を返したんです。

そしたら各国の言語に翻訳されて、海外で有名になってしまいました。そこでアメリカのApple本社から日本のAppleに「どんなばあさんか調べてほしい」って依頼があったようなんです。

そして、2017年6月にアメリカで開催されたWWDC 2017の「サプライズスペシャルゲスト」として、10歳のアプリ開発者ユマ・ソエリアントさんと一緒に紹介されました。

「CNNに見つかっちゃったのよ」と笑う若宮さん

――ティム・クックCEOともお話ししたと聞いています。

大企業の社長だから挨拶して、サッと帰るのかと思っていたら、私の作ったアプリを見ながらゆっくり話すことができました。以前から「シニアユーザーの要望をAppleに伝えたい」と思っていたので、これは直接アピールするチャンスだ!と、必死になって訴えました。

シニアは、指が乾燥してスライドやスワイプなど、指を滑らす動作をしても画面がうまく反応しないんです。これはスキルの問題ではないので何とかしてほしいと言ったら、クックさんは「考える」と答えてくれました。

シニアとデジタルについて各地で講演。ついに国連へ

――すでに2014年時点で、若宮さんはシニアとデジタルについて「TEDxTokyo(テデックス東京)」に登壇され、その後も各地での講演を盛んに行われていますよね。そして2018年2月には、国連の会議で基調講演をされました。

高齢者とデジタル技術をテーマにした国連の会議に招かれました。講演は何度もしていましたが、国連は英語でのスピーチです。国連の担当者とのやり取りも英文メールです。自分でGoogle翻訳を使って、読み書きをすることもありましたよ。ある程度の文章量をまとめて貼り付けても、結構うまく訳してくれます。あとは、私を助けてくれる方々がどこからともなく集まってくださるので、こういう方々にサポートをお願いしたりもしました。

特に基調講演では、Google翻訳の英語よりももっと重々しい表現にしなければならなかったようで、サポーターに改めて翻訳していただきました。たとえば、ここで息継ぎをするとか、この発音はゆっくりとか、練習も見ていただいて。

私ね、本番に強いの。だから練習がダメでも、本番はすごくうまくいきました。自分でもびっくり(笑)

サポーターの方々は、スピーチのときだけでなく、ニューヨークに行く道中から助けていただきました。海外旅行は毎年のようにしていますが、今回は仕事なので、打ち合わせなどの時間をしっかり守らなければいけない。国連との細かな打ち合わせも当然英語です。そして、お腹を壊して登壇できなくなっても困ります。サポーターのみなさんには本当に助けられました。

日本人の基調講演自体が珍しいということだったので、少し緊張もありました。講演のスライドには、Excelアートで描いた文様を装飾として入れ、iPadアプリを使ってお琴を弾く動画も入れました。私の演奏にたくさん拍手をもらったけど、実は本当の琴は見たこともないのよ(笑)

国連のウェブサイトでは、若宮さんのスピーチを見ることができる

“デジタル駆け込み寺”を作ってほしい

――若宮さんはメロウ倶楽部だけでなく、ご自宅でパソコン教室も開いています。同世代のシニア層が抱えるITの課題は何だと思いますか?

シニアは「使っていたら、機械が壊れちゃった」ってよく言うんです。でもパソコンやスマホって結構壊れないのよ。もし動かなくなったって、初期化して再インストールすればいい。

「バックアップしないといけない」って言われて困っている人もいるようですけれけど、そういう初心者の方って大した使い方をしてないから、データが全部消えても困らないんです。知らずにクラウドに上がっているデータもあるし。でも、クラウドなんて言っちゃうと「雲の上にデータがあるの?」なんて混乱しちゃうんだけどね(笑)

メディアの報道で、「インターネットで詐欺の被害にあった」とか「LINEで犯罪が起きた」とか、薬で言えば副作用のような悪いことばかり伝えているでしょ。でも実際には、水害のときに川上にいる人が川下の人に「いまこんな状態だから危ない」と画像を送って人を助けることもできるわけなのね。そういう良いことを報道せず、トラブルばかり報道するから余計にシニアはITを怖がる。せっかくLINEのアカウントを作っても、誰ともつながっていないシニアもいるほどよ。

――シニア層がITを使って幸せに暮らすために、若い人がサポートできることはあるでしょうか?

デジタル機器のわからないことを気軽に聞ける”デジタル駆け込み寺”があればいいと思います。企業のカスタマーサポートよりも前の段階で聞けて、考え方から教えてくれるような場所ですね。たとえば、「ネットが繋がらない」と駆け込んで来たら、「ホームページは見られる? メールは受信できる?」というように、次のトラブル時に、自分でどうすればいいのかを考えられるような教え方を、個別にしてくれるといいですよね。トラブルのときは頭が真っ白になってしまうから、とりあえず相談できる第一段階の場所として。そこで解決できなければ、もっと専門的なカスタマーサポートなどに相談するような流れがいいと思います。

――スマートスピーカーなど、シニアの家庭にもインターネットにつながる機器が入ってきますね

テレビが地デジに変わった時、リモコンのどこかを押せば字幕表示が消えるのかわからず困って、同じテレビをもう一台買った……なんてシニアもいます。これから、さらにデジタル機器が多様化していけば、シニアはますます対応できなくなってしまうと思います。これは深刻な問題です。

取材中もFacebookメッセンジャーなどのアプリを使いこなしていた若宮さん。しかし、シニアのIT問題は深刻だと語る

――シニアがスマホを使いこなせると、どんな利点がありそうでしょうか。

たとえば、図書館で本を借りるときに楽になりますよね。今はメールで申し込めるのに、できない人は電話で貸し出し予約をするわけです。メールなら受け付ける人もすぐ処理できるのに、電話だと話が長くなり、対応に時間がかかってしまう。

ほかにも、病院の診療予約をネットでできるようになれば、待ち時間はなくなるし、病院の人件費も減る。お互いに良いことばかりです。

家族の安否確認にはLINEが便利ですね。大きな地震があっても、LINEで一言、またはスタンプ一つ送るだけでも生きている証拠になります。家族のためにも、地域社会のためにもスマホを使っていただきたいですね。

――少しずつシニアもITを活用できるようになればいいですね。ありがとうございました。

「シニアが積極的にITを使うのことは、社会のためになる」と若宮さん

インタビューは、国連から帰国して間もない頃に行った。「時差ボケとか贅沢は言っていられないの」と、各地での講演やイベント出演、取材対応に追われる合間に笑顔で対応してくれた若宮さん。シニアが直面するIT問題をリアルに伝えられる貴重な人物として、今後の動向からも目が離せない。

※前編はこちら

 

執筆:鈴木朋子 編集:ノオト

本稿は2018年3月13日、HRナビに掲載された記事です。

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