ヤンデレアニメキャラ(相手に好意を持ったデレデレ状態のあまり、精神を病んだキャラクターの意)をユーザー自ら育成する通称「あやせAI」。正式プロジェクト名は「なりきり質問応答 俺の嫁(あやせ)がこんなに可愛いわけがない」――そう言われても「何それ?」となる読者がほとんどだろう。
しかし『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(以下、俺の妹)という作品なら、知っている人も一定数いるはずだ。原作小説はシリーズ累計発行部数は500万部以上、2010年(第1期)と2013年(第2期)にはテレビアニメも放送され大人気となった。その『俺の妹』に登場する多彩なキャラクターの中でも、ひときわ異彩を放つのが「新垣あやせ」だ。主人公に好意を寄せるも、思いあまって殴り飛ばしたり、「ぶち殺しますよ」と暴言を吐いたりする、キワモノキャラだ。
主人公の妹であり、同作のヒロインである高坂桐乃のクラスメートとして、あやせは登場する。桐乃とモデルの仕事をこなし、普段は良識ある行動を取る彼女だが、親友の桐乃を守るためなら手段を選ばない。好意を寄せているにもかかわらず、主人公に殴る蹴るの暴行を加えたり、最愛の桐乃の行動を監視するなど、いわゆる“ヤンデレ”の1つの到達点とも称されるこのキャラなのだ。「あやせAI」は、このキワモノキャラを、ニコニコ生放送の場に集まったファンの力を借りて「育て」、AIとして世に送り出そうというものだ。
ファンの力を借りてAIを「育てる」とはどういうことか。そして、ラノベキャラのAI化がエンタメに与える影響とは? 仕掛け人であるドワンゴの川端秀寿さん、NTTメディアインテリジェンス研究所の東中竜一郎さん、ストレートエッジ代表の三木一馬さんに話を聞いた。
「俺嫁あやせAI」はニコニコ動画有料チャンネル「伏見つかさチャンネル」から参加可能。
あやせAIの仕組みとは?
NTTとドワンゴが開発した「なりきり質問応答」サービスを使って、キャラクターにユーザーが質問を投げかけ、それに対して別のユーザーが「キャラになりきって」答える。回答の内容に対して、他のユーザーが「ポイね!」という、そのキャラらしさの評価を行い、その蓄積によってキャラクターの特徴をより「らしく」再現した会話AIを実現させようというもの。
「なりきり質問応答 俺の嫁がこんなに可愛いわけがない」は、ニコニコ動画の有料チャンネル「伏見つかさチャンネル」内で展開されているサービス。
「あやせAI」はこうして生まれた
――「あやせAI」が登場したのは、2010年のテレビアニメ第1期から7年、テレビアニメ第2期から4年経ったタイミングです。どのような経緯で開発されたのでしょうか?
川端秀寿さん。
株式会社ドワンゴ 営業本部チャンネル営業部 副部長。
川端 ドワンゴでは、2014年に「ドワンゴ人工知能研究所」を発足し、人工知能の研究や活用に力を入れてきました。
そんななか、2016年にMicrosoftがTwitter上ではじめたAIチャットボット「Tay」が、わずか1日で終了するという事件が起こりました。「Tay」はTwitterユーザーからの呼びかけられた内容から学習する人工知能botでした。そこに目をつけたユーザーから、人種差別的な投稿を大量に浴びせられ、それを学習した結果、自らそれを発信するようになってしまったのです。
――あれは衝撃的な事件でしたね。逆に言えば、それだけ短期間で学習ができる可能性を示したとも考えられるのでは。
川端 そうなんです。私たちドワンゴもニコニコ動画というコミュニティを運営しているので、「多数のネットユーザーの言動から人工知能が学習する」というアプローチに強い関心を持ちました。
残念ながら、ニコニコ動画でも「荒らし」行為が問題になることはあります。一方で、ドワンゴは著名人や有識者、特定のジャンルに特化した投稿者が利用できる「チャンネル」を提供しています。特定のユーザーやジャンルに愛着や関心を持つ人が、わざわざお金を払ってコミュニティに参加する「チャンネル」内では、荒らし行為が起こりにくいのです。
チャンネルはファンが集まっている場所で、ファン同士も「その場を良いものにしたい」という共通意識を持っている。その意識がベースにあれば、「ファンのなりきりで集めたデータを活用した対話システムの構築」の学習の精度も高いものになるのではないかと考えたんですね。
そこで、ドワンゴ人工知能研究所の山川宏所長にご紹介をいただいたのが、NTTメディアインテリジェンス研究所で人工知能の雑談対話を研究していた東中さんでした。
――これが、「あやせAI」で使われている「なりきり質問応答」の技術との出合いとなるわけですね。東中さんは今回のプロジェクト以前から、この技術を研究されていたのですか?
東中竜一郎さん。
NTTメディアインテリジェンス研究所に所属。「しゃべってコンシェル」の質問応答機能の研究開発や、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトにおける英語科目を担当する。人工知能学会理事。言語処理学会編集委員。平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞。
東中 私は今、NTTドコモの「しゃべってコンシェル」にも採用されている知識検索技術の研究開発をしている言語処理のチームに所属しています。しかし、知識検索といっても、ウェブ上の情報を音声で検索し、その答えを返す「しゃべってコンシェル」と、ユーザーとのやりとりをベースにゼロから学習を行う「なりきり質問応答」では、ユーザーとやり取りをする「チャットボット」という見た目は似ていますが、中身はまったく異なります。
実は、私が「なりきり質問応答」の研究に取り組み始めたのは、「しゃべってコンシェル」よりもずっと前なんです。時系列でいうと「なりきり質問応答」は2008年頃から、「しゃべってコンシェル」は2012年頃からの取り組みですね。ずっと形にしたかったテーマなのですが、学会に論文を何度出してもなかなか理解されず、日の目を見なかった研究で(笑)。ずっと温めていたところ「あやせAI」のお話をいただいたというわけなんです。
Siriやスマートスピーカーのように、ロボットとの対話に世の中の関心が集まってきたこと、そして『俺の妹』の「あやせ」のように「キャラクターと対話すること」に魅力を感じるネット上のコミュニティが成立し得るようになってきたことなど、環境が整ってきたのだと思いますが、私自身としても非常に感慨深いものがあります。
――そのとき東中さんは、『俺の妹』をご存じだったのでしょうか?
東中 いいえ。最初は何の話なのかも、まったくわかりませんでした(笑)
――では、『俺の妹』はどのような経緯で?
三木一馬さん。
作家のエージェント会社ストレートエッジ代表取締役。前職は株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークスの電撃文庫編集長。
三木 川端さんは、私のところに「AIと著作物を組み合わせた新しい集客を図りたい」という相談にやってきました。当時、私はKADOKAWAで電撃文庫の編集長を務めつつ、『俺の妹』の著者である伏見つかさ先生の編集も担当していました。コンテンツをたくさん持っているKADOKAWAと、ニコニコ動画を展開するドワンゴが経営統合しているという背景もあり、何かシナジーが生まれないかという話だったと思います。
僕自身もそれまで他の作品でAIなどのテクノロジーとキャラクターを組み合わせた経験があったのですが、キャラクターに力がないと――つまり有名でないと、効果は生まれにくいと感じていました。伏見先生の最新作『エロマンガ先生』はとても魅力的な作品なのですが、当時はまだ売り出し中の段階。「なりきり質問応答」に適しているのは、人気が確立していて、かつ飛び道具的なキャラクターがいる作品だろうと考え、『俺の妹』のあやせに白羽の矢を立てたというわけです。
――飛び道具的なキャラクターというのは?
三木 ヤンデレというあやせの属性はもちろんですが、『俺の妹』が会話劇だけでコンテンツが展開できるラブコメ作品だったということですね。バトルアクションの登場人物だと、会話だけではストーリーを進めにくい。たとえば、『ドラゴンボール』の孫悟空とは語り合うよりも、戦いたくなっちゃうじゃないですか。「アイツを口説いてやろう」とかなかなか思わないし(笑)。そういう意味ではラブコメは会話が主体なので、チャットボットとも絡ませやすい。
――なるほど(笑)
三木 AIから人間味を感じるのって、ズケズケと踏み込んでくる時じゃありませんか? アイアンマンの「ジャービス」のように皮肉とか冗談とか、余計なお世話だよっていう会話を仕掛けてくるAIに対して、僕たちは人間味を感じやすいと思うんです。AIの「あやせ」から罵倒されたら、やっぱりそこに人間味を感じるし、ファンなら嬉しいはずだ、と。
――主役級という意味で、ヒロインの桐乃という選択肢もあったと思うのですが?
三木 確かに、あやせは1巻の時点ではまだ登場しないキャラですしね。でも、作品をある意味“愛しきった”ファンの間では、あやせの人気が高いんですよ。かつ、彼女のキャラクターは罵倒のバリエーションに富んでいる。あやせにいろいろな言い方で罵倒されるのを気持ちよく楽しむ……そんなカルチャーが生まれたらおもしろいかなと、提案させてもらいました。
キャラの魅力がAI学習を促進
――そうして、2017年10月に「あやせAI」作成プロジェクトがスタートしました。期待通りの学習効果を得たのでしょうか?
東中 三木さんの狙いは当たったと思います。最初の第1回番組放送で約2000、その後わずか1カ月ほどで1万件のペア(※質問と応答の組み合わせ)を学習することができました。
伏見つかさチャンネルでの生放送の模様
――自動的に返答するチャットボットの事例はすでに数多くありますが、「なりきり質問応答」の特徴は、ユーザー自らが質問だけでなく、応答内容も投稿する点です。ユーザーからの質問に対して、ユーザーが回答もしなければならない仕組みにもかかわらず、これだけの数というのは確かにインパクトがあります。
東中 「あやせAI」では、ユーザーがあやせに質問をして、別のユーザーがあやせになりきって回答を投稿し、さらにそれに対して他のユーザーが「あやせっぽい」かどうかを判定します。
東中 ファンコミュニティ内なので、もともと回答のクオリティは高いし、川端さんのお話にあった「荒らし」も少ないのですが、さらに回答の精度をあげるために「あやせっぽさ」を評価するランキングの仕組みを設けました。「いいね!」と似たようなものですね(笑)
三木 僕が「あやせ」を推したのも、キャラに振れ幅がなくてはならないと思ったからです。受け答えが確立された完璧なキャラじゃなくて、ユーザーが自分でいじりたくなるような余地があったほうがいいなと。たとえば、きわどい質問には「通報しますよ」という回答がつきがちなのですが、あやせなら少し違う切り返しもするかもしれない……などユーザーが想像力を働かせやすいはずだ、と。
――ユーザーは、手間だけでなくセンスも求められることになりますね。
三木 そうなんです。いわば“質の高い二次創作”を作るようなものですからね。とはいえ、「原作ではあやせは主人公を『お兄さん』と呼ぶのに、あやせAIでは名前で呼ぶ」など、多少は原作から逸脱していても、それはそれで楽しめればいいかなと思っています。
川端 実は、生放送中はみなさんが「あやせAI」への投稿に夢中で、逆にニコニコ動画自体へのコメント投稿が減ってしまうという別の悩みがあるのですが(笑)
――今後、学習データをもとに、「あやせAI」が自動応答サービスへと進化するのでしょうか?
東中 そうですね。エンジンの開発にはもう少し時間が掛かるのですが、いずれシームレスに「なりきり質問応答」でも「あやせAI」が自動的に回答するといった場面を増やしたいと考えています。人間=他のユーザーの回答だと、どうしてもレスポンスに時間がかかることもあるのですが、自動応答なら即座に答えが返ってくる。その方が、実際にあやせと話している感じがでますからね。
――そもそも、ユーザーによるQ&Aのペアがあっても、それだけですぐに対話型のAIチャットボットが作れるということではないのですね。
東中 そうです。質問文が完全に一致することは稀ですし、類似度が高い回答を返せたとしても、文脈的・意味的に整合した答えを返すのは、今の技術でもかなり難易度が高いのです。
AIスピーカーがまさにそうですが、「あらゆる問いかけに対して、そのシチュエーションに即した回答を返す」というのはまだまだこれから進化していく技術です。「あやせAI」も、『俺の妹』の世界観と合致したペアを抽出して、対話モデルとして確立していく必要があります。「なりきり質問応答」は、その第一歩というわけです。
別の言い方をすれば、「しゃべってコンシェル」のような客観的な情報と主観的な情報に基づく対話――たとえば「明日の天気を教えて」と「あしたどんな天気になると思う?」――の間には、大きなハードルがあるのです。だから、「あやせAI」のようにユーザーコミュニティを学習の場とすることで、主観情報に基づく対話の最適化、チューニングを図ろうとしている、ということですね。
キャラに“振れ幅”を持たせるというチャレンジ
――先ほどのお話では、あやせは振れ幅のあるキャラクターということでした。とはいえ、ユーザーやその学習データを得たAIが「あやせ」としてチャットボットになる、というのは「著作物の管理」――つまり、キャラクターという著作物の同一性保持、という観点からはクリアすべきハードルがあると思いますが。
三木 そうですね。先ほど川端さんからあったように、「あやせAI」の参加者はチャンネル登録者に限定されているので、そこには「愛」があると思うんです。チャンネルにいる人たちはいわゆるオタクのはずですが、コミックマーケットでの整列をみてもわかるように、彼らのモラルってめちゃくちゃ高いんですよ。コンテンツを楽しむために自らの協力と努力を惜しまないというポジティブで建設的な考え方がある。
「あやせAI」でも、それは証明されたと思うんです。キャラクターの世界観を壊してしまうような、投稿はほとんどありませんでしたし、仮にそんな投稿があっても、「ポイね!」がつかない。投稿以外にも「こうすればもっと楽しくなる」という提案もたくさん頂きました。
川端 たとえば、最初はユーザーを総合ランキング(ポイね!の獲得数や投稿数などからの貢献度)で評価していたのですが、「ポイね!」の獲得数のみを軸にしたランキングもあったほうが、より回答の精度が高まる、といった意見があり、反映しました。たとえ投稿数が少なくても、みんなから絶賛されるような回答をしたユーザーにも光をあてようということですね。
――「伏見つかさチャンネル」内での生放送では、三木さんや声優の藤田茜さんらによる生放送が月に1回程度行われています。そこで「あやせAI」へのおもしろい投稿を取り上げたり、出演者自らが投稿を行ったりすることで、コミュニティのいわば「練度」が上がっているとも言えそうですね。
川端 さらに電撃文庫編集部の方々にも「今週のポイね!」として、良い回答を選んでいただいていますので、それもベンチマークになっていると思います。
――人気キャラクターを登場させればいいわけではなく、そういった取り組みがあって初めてキャラクターの世界観に寄り添ったAI学習が成立するということですね。
エンタメ×テクノロジーを持続可能な取り組みにするには?
――あやせAIの元となる対話データは、バーチャルホームロボット「Gatebox」とのコラボも発表されています。あやせAIは今後どのように発展していくのでしょうか?
東中 私は長らく、対話を通じたAI学習がどうすれば持続的なものになるか、というテーマを研究しています。流行や目新しさだけでは、ユーザーも飽きてしまう。でも、キャラクターと世界観の力を借りれば、つまり「なりきり」の力を使えば持続的な対話が実現できる可能性があると、あやせAIは示してくれたと思います。
あやせAIには、コスプレのようにキャラクターに「なりきる」、キャラクターを「愛でる」、ファン同士でコミュニケーションといった楽しみ方があります。「あやせAIでの質問×演じる楽しさ=あやせAIでの回答」が掛け合わさり、それをコミュニティ参加者の「クオリティの高さ」への意識が支えることで、AI学習に持続可能性が生まれつつあります。
これからは、ユーザーからの質問にAIが自動的応答する段階へ開発を進めていきます。そうすることで、さらに学習も効率的になるはずです。それこそチューリングテスト【※】ではないですが、おそらくユーザーからは、これまで通り他のユーザーから回答されたものなのか、AIが自動的に答えたものなのかは、見分けがつかなくなっていくはずです。
※ 機械が知性を備えているかどうかを判定するテスト。人間とコンピューター(AI)がそれぞれ人間の質問者からのテキスト入力による質問にテキストで答え、質問者がどちらの回答かを判別できるかテストする。
私としては、あやせ以外にも、さまざまなキャラクターで同じ取り組みをしたいですね。そうすることで、あやせのような特定の性格や世界観に依存した学習を他のキャラクターに広げ、学習データを積み重ねることによって、だんだんと現実世界の人間に近い対話を可能とする普遍的な学習結果を得られると考えています。
もちろんアルゴリズムのチューニングには人の手を介しますが、これまで開発者だけで行ってきた作業が、ある程度キャラクターを愛するコミュニティへ委ねることができると示されました。学習だけでなく、チューニングについても持続可能なモデルが成立しつつあると思います。
――お話にあったように、キャラクターを拡張する研究的な取り組みでもあるわけですが、キャラクタービジネスという観点からはいかがでしょうか?
三木 「あやせAI」が示したように、AIに限らずITとコンテンツが組み合わさることで、さまざまな可能性が生まれると考えています。コンテンツがテクノロジーを進化させることもあるはず。戦争がテクノロジーを爆発的に進化させるのは、多くの人をがむしゃらにさせる力があり、大きな予算が投下されるからです。
そしてテクノロジーの進化は、コンテンツにも必ず貢献します。たとえば携帯電話が生まれたことで、物語も進化した。AIやAR、VRなどが生まれたからこそ、たとえば『ソードアート・オンライン」』のような作品世界もさらに広がりました。そういった新規性を取り入れなければ、伝統文芸になってしまいますからね。
これまでコンテンツ、特にキャラクターをテクノロジーと組み合わせることには、世界観を崩すのではないか、という心配から慎重になっていたと思います。しかし「あやせAI」や初音ミクが先例になってくれたように、テクノロジーとの融合がキャラクターの可能性を広げ、長く多くの人に愛される事例がこれらも増えていくはずです。我々コンテンツホルダーも、積極的にテクノロジーと向き合うべきだな、と。
実は、「あやせAI」にはもう一つ期待があって。それはAIとの対話がそのまま小説になる世界が早く来てほしいということなんです。小説は、編集者と著者が対話しながら物語の筋道を立てていく作業から生まれているのですが、これが自動化できれば良いですね(笑)。そこまで行かなくても、「部屋にあやせがやってきた」みたいなト書きに対して、よりしゃれた表現パターンを提案してくれるだけでも、すごく助かるはずなんです。PhotoShopがAIで自動的に画像を調整してくれるようになりましたが、あれを小説でやってほしい。
――そうなれば、編集者や著者が取材や次回作の構想へより注力できるようになるかもしれませんね。ニコニコ動画=プラットフォームという観点からはいかがでしょうか?
川端 お二人のお話には全く同感です。加えて、「あやせAI」ではコンテンツやキャラクターへの愛によって投稿、参加が促進されたわけですが、逆方向の動き――つまり、投稿や参加によって、コンテンツ、そしてキャラクターへの愛がさらに深まるという点も大きいと思います。
これまで二次創作といえば、絵を描いたり動画や音楽を創ったりと高いクリエイティビティが求められました。しかし、質問や回答は誰でも書けるし、コスプレなどに比べても「なりきる」ハードルが低いのです。
実は「なりきり質問応答」を「あやせAI」として実装する際には、「ボケて」を参考にしました。お題を投稿する、そこに笑えるボケを加える、それを楽しむというコミュニケーションが、持続的に行われているからです。
「あやせAI」はコミュニティの力を生かした学習でしたが、その学習データをもとにした対話シナリオが「キャラクターをホログラムで表示して、家の中でキャラクターと一緒にコミュニケーションができる」という製品「Gatebox」に搭載されるのです。このGateboxは4月に開催予定の「ニコニコ超会議」でも展示されます。生活空間やイベント会場などで生まれた対話は、ニコニコ動画のチャンネルとはまた異なるものとなるはずです。そこでの対話を通じて、「あやせAI」はさらに進化するはずです。
執筆:まつもとあつし 編集:ノオト
本稿は2018年3月19日、HRナビに掲載された記事です。