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絵が下手でも問題なし! 頭の中を共有できるビジネスのスゴ技「グラフィックレコーディング」を体験してみた

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ビジネスで重要視されるもの――現代社会において、それは創造性とスピードだ。顔を合わせた議論ならば、表情や声のトーンで推し量れるかもしれない。しかし、文字だけの議事録に変換した途端、なかなかうまく伝わらなくなってしまうことがある。こういったビジネスの障壁をクリアする手法として注目されているのが、グラフィックを使って対話情報を構造化する「グラフィックレコーディング」だ。

株式会社ディー・エヌ・エー デザイン本部のデザイナー、和波里翠(わなみ・さとみ)さんは、グラフィックレコーディングは、情報を可視化し、共有するための手法だと言う。他者とのコミュニケーションだけでなく、自分の内面と対話し、キャリア設計にも役立てられるというこの手法について、和波さんに話を聞いた。

和波里翠さん。 株式会社ディー・エヌ・エー デザイン戦略部のUI・UXデザイナーであり、社外でもグラフィックレコーダー・ビジュアルファシリテーターとして活躍し、活動記録をブログ「Enjoy Graphic Recording」やSNSに残している。グラフィックレコーディングとは何か、HRナビのイメージに合わせて、ブルーを基調に描き下ろしてくれた

議事録ではなく、図解によるコミュニケーションデザインの手法

――まず確認しておきたいのですが……。救いようもないほど絵がヘタでも問題ないでしょうか?

大丈夫です、後で一緒に描いていきましょう(笑)

「グラフィック」とありますが、きれいな絵を描く必要はありません。「お絵かき」ではなく「可視化の手法」なので、コツをつかめば描けますよ。

――グラフィックレコーディングは、どんな場面で活用されているのでしょうか?

カンファレンスなどイベントでよく使われていますね。それが理由で、議事録の手法だと思われるかもしれません。確かに、多人数の議論をリアルタイムに可視化して共有できるのはグラフィックレコーディングの特徴ですが、決して議事録だけに限定したものではないのです。

たとえば、ブレストするときや個人の振り返りにも使えますし、私はコミュニケーションデザインの一つの方法だと思っています。言葉というものが何を意味するかは、組織や国などのバックグラウンドが違うとズレてくるものですが、ビジュアルで表現することで言葉を補うことができます。また、言葉だけでは伝えづらいときのコミュニケーション手段としても役に立つかな、と。

――文字だけでなく、ビジュアルで表現することのメリットを教えてください。

曖昧なアイデアやシーンなどを議論するとき、描きながらだと話が発展しやすくなります。また、構造を意識して描くため、流れや仕組みがわかりやすくなったり、みんなで指差しながら話したりできます。自由に意見を出し合うと、話の行方がわかりにくくなってしまいがちなので、その場で意見を整理して共有したい場面で効果を発揮すると思います。

――象徴的な事例はありますか?

グラフィックレコーディングは政府や行政などの対話イベントでも取り入れられています。また、患者さんにしかわからない悩みを見える化して共有しようという取り組みにも活用されています。

自分たちだけでは解決できないことが増えてきて、組織や企業の枠を越えたコラボレーションが当たり前になってきている昨今だからこそ、共通言語を持つことの重要性は高まっているように思います。多種多様な人がいるワークショップや、医療者と患者のように感覚や感情を共有しにくい関係の場において、特に向いていると考えています。

NASAのハッカソンにデザイナーとして参加した際には、ビデオ通話で言語を越えたコミュニケーションにも役立ちました。ほかにも、企業がビジョンや製品開発の話をするなど、まだ存在しないものを考えるような場でも効果を発揮します。私は社内のそれらの会議などで使っています。

――和波さんのお仕事での活用方法を、詳しく聞かせてください。

普段は事業のUI・UXデザイナーをしています。今はヘルスケア事業の担当です。スマホアプリのデザインだけでなく運用実装にも携わっています。

グラフィックレコーディングは、新規サービスの立ち上げ時に、さまざまな会議で活用してきました。ブレストやユーザーインタビュー、ペルソナ、UI開発、ビジョン作り、コンセプト作り……。最近ですと、ペルソナ設計やアイデア発散のワークショップを作って実施するなど、さまざまな事業部の会議に活用しています。

――エンジニアリングにも活用できますか?

プロジェクトマネージャーになりたい人や、ファシリテーション力を向上させたい人にもオススメです。プログラムの構造や作業の大変さを理解してもらうのに、文字だけでなく構造で伝えると説明がしやすくなります。誰がやるのか、課題は何なのか、工数はどこにどれだけ必要なのか。

かつて、自分のチーム内にいるエンジニアと非エンジニアの間で合意を取りつけようとして、なかなか前進しないことがありました。その際、絵を交えた構造図を作って説明したところ、プロセスが一気に進んだことがありました。

マネジメント層やデザイナー、企画担当者など、話を伝えたい相手が必ずしもプログラミングを理解しているわけではないので、コミュニケーションを取るための一つの方法として役立つのではないでしょうか。

――つまり、コードが共通言語にならない相手との意思疎通を図るのに役立つということですね。

そうですね。「GitHub」のSourceTreeのように構造を可視化して伝える時にも有効ですし、開発チームの課題を話し合うときやビジョン設計にも使えると思います。

描き方に“コツ”はあるが“ルール”はない

――和波さんは、いつ頃からグラフィックレコーディングを始めたのですか。DeNAには、グラフィックレコーディングのスキルを期待されて入社したのでしょうか?

もともと小さい頃から絵ばかり描いていて、授業ノートもイラスト図解で記録したり、言葉の通じない友人とも描いて共有して対話したりするのが好きでした。

人前で「グラフィックレコーディング」といって描き始めたのは2014年から。誰もが思考や想いをアウトプットして共有できる世界になったら楽しいなと考えていて、その具体的手段として始めました。対話を俯瞰して抽象・具体を含めてどう場に返すか、人や場に起こる変化や、どうブーストがかけられるかに興味があります。最近は個人の研究活動を続けつつ、ビジュアルファシリテーションチーム「BRUSH」のビジュアルファシリテーターとしても活動しています。

DeNAにはデザイナーとして入社としたので、メインの仕事ではないのですが、社内のさまざまな事業会議にファシリテーターとして入ったり、ワークショップを実施したり、イベントで活用したりして、可視化による価値は認識されてきていると思いますので、活かせる場所は今後も模索していきたいです。

和波さんは、説明や記録のために、もともと文字だけでなく絵も使っていた。自分の経験を多くの人にシェアする活動にも積極的だ

――グラフィックレコーディングに必要な知識は、どのように身につけたのでしょう。

人それぞれにやり方があります。図解による思考術やコミュニケーションの関連書籍を読んで参考にはしましたが、自分の経験をもとに現在のやり方にたどり着きました。学生時代、情報デザインを専攻していたのでそれも生かされているかもしれません。
私は、描く人が少しでも増えたらいいなと思い、イラストの描き方や構造化など独自のフレームワークを作って活用してもらえるように提案しています。オンライン動画学習サービスの「Schoo」でのグラフィックレコーディング入門授業のほか、大学や高校での授業を行うこともあります。

行政や地域課題解決のためのワークショップやアイデアソンや未来を考える対話の場を中心に、これまでに全国各地で230回以上グラフィックレコーディングをしてきましたが、実はこの考え方と描き方を悩み相談などにも使っています。お陰で友人の転職を成功させることもできました(笑)

――個人の身近なシーンでも使えるんですね!

自分の内面にある、ぼんやりした気持ちを具体的な形に落とし込む時にもこの考え方は使えます。たとえば、自分のキャリア設計や課題整理、癖を見つけるような使い方。演繹法と帰納法のどちらからアプローチしてもいいと思います。

あくまでコミュニケーションデザインの一つの方法と考えるので、向いているのは絵をが得意とする人だけではありません。人とつながりたい人や他者やその関係性に興味がある人、コミュニケーション自体が好きな人なんじゃないかな、と。

まずはペンを持ってみよう!

――私も描いてみたくなりました。グラフィックレコーディングに必要な道具はなんですか?

紙とペン、あるいはホワイトボードがあれば始められます。タブレットでもいいですし、極論は描ければなんでもいいんです。会議室で使う場合は模造紙など大きい紙を使って、壁に貼ったりテーブルの中央に置いたりすることが多いです。

和波さんが模造紙でよく使うプロッキーとノイラント

ペンも人それぞれですが、模造紙を使うなら壁に貼ることが多いので、裏移りしない水性のサインペンがいいです。私は三菱鉛筆さんのプロッキーをよく使います。ドイツ製のNeuland(ノイラント)ペンの愛用者も周りのグラフィッカーに多いです。

自分のスケッチノートを描く時はバッグに入れて持ち運べる大きさのクロッキー帳を使っています。細い黒ペンを中心に使い、淡い発色のマイルドライナーで色を付けるのが私は好きですね。クレヨンやパステルを使う人もいますよ。

では、さっそくプロッキーを持って一緒に描きましょう。

――改まって持とうとすると、どの角度で持てばいいのかわかりませんね。

縦線を太く横線を細くして文字を読みやすくするために、斜めになっているペン先の尖がったほうを親指側に持って、文字を書いてみてください。

――確かに持ち方を気にしただけで、大きな文字をバランス良く書けました。次はいよいよ絵を描きたいのですが、とにかく下手なので、逆に文字よりも伝わりにくいのでは、と心配になります……。

最初は簡単な図形を組み合わせて、感情を表現することから始めましょう。きれいに描こうとしすぎて描けないという悩みがありそうですが、汚くてもいいからまず生み出すことが大切ですよ。

絵心のなさでは誰にも負けない自信のある筆者が、表情イラストに挑戦。簡単な図形を組み合わせて、眉の角度を変えるだけでも感情を表現できる

――なるほど、こんな単純なものでも、ちゃんと感情が伝わりそうですね。でも、グラフィックレコーディングって、いろんな色を使わないといけないのでは?

たくさん色を使う場合もありますが、1色で十分なこともありますし、黒を基本に、赤や青を足す程度でもいいと思います。むしろ、そのほうが描くルールを作りやすいです。

特に最初のうちは、色数を減らしたほうがいいと思いますよ。色による情報が制限され、迷いなく描きやすくなるので、3色ぐらいにとどめるとか。それから、いきなり人前で描くのは緊張するので、自分のスケッチブックに議事録や自分の考えを描くことから始めてみてはいかがでしょうか。

――それなりにトレーニングが必要ですね。聞きながら描くことや、どこに情報を配置するか、どの情報を絵にするのか。絵の上手さよりも、他のスキルが要求されるということが、よくわかりました。

そうですね。あくまで対話などにおいてまだ見えてないモヤモヤとしたものを可視化するために描くものなので。私は「聴く力」「表現する力」「構造化する力」という“3つの筋肉”を鍛えることで、描きやすくなるのでは、と考えています。

3つの筋肉について話しながら、和波さんがよどみなく描き進めていった“グラレコに必要な3つの筋肉”の図

――どうすれば鍛えられますか?

まず、「聴く力」についてはラジオやインターネット動画を聴きながら、“聞き分ける練習”をするといいでしょう。人によって話し方に特徴があるので、いろんな人の話を聞くのはいいトレーニングになります。次に、「表現する力」は先程の簡単な顔や体や表情イラストの練習や5W1Hで絵を描いてみてシーンや空間を描く練習をするのがオススメです。

最後「構造化する力」は、情報を分けること、つなげることを意識を持つことが大切です。テレビや動画に出てくる図が、どんな情報の分け方しているか、どんなパターンがあるかなど、考えながら観るのも構造化のトレーニングになると思います。実際にいろんな人が描いたものを参考にするとより楽しく学べますよ。

冒頭のグラフィックは、和波さんが数分でサッと描き上げたもの。手際よく描くには、“グラレコ筋”が必要だ

目的に合わなければ「無理に使わない」という選択を

――堅い雰囲気の会社などでは、いきなり絵を描き始める勇気が出ないのでは。どのように取り入れるのがいいでしょうか?

そうですね、「〇〇のために描いてみたい」と言ってまずは目的を伝えてみるのはどうでしょうか。グラフィックレコーディングが目的にあっている場であれば、反対されないのではないかと思います。共創の場や新しいことを取り入れ変革を起こしたい場であれば、そのメンバーや会社はきっと柔軟に受け入れてくれるのではないかな、と。

逆に「会議で落書きなんて!」といった人がいる場では効果的ではないかもしれません。不確かさも含め新しいことを取り入れ、変革を起こしたいという目的に合わないのであれば、無理に使わなくてもいいと思います。

――適切な手法は場面によって違いますよね。

「なぜ活用したいのか」という目的を最初に場作りのメンバーで決めるといいでしょう。同じような場面でのグループワークにはさまざまな手法があるので。実際、私もグラフィックレコーディングが目的に合っていなくて失敗した経験がたくさんあります。

逆説的ですが、グラフィックレコーディングを上手に使うには、無理に使おうとしないことです。手段と目的が逆にならないように、目的に応じたやり方を選ぶことが大切です。

グラフィックレコーディングのメリットをまとめた和波さんのノート。異なるバックグラウンドを持つ人同士のように言語の解釈に差があるケースでも、絵のイメージで想いや温かさ、抽象的な感情を伝えやすいという

――課題を感じることや、より効果的な使い方はありますか?

イベントや場によっては描きっぱなしで終わってしまうことがあるので、その場で出た意見について振り返り、参加者それぞれが学びを持ち帰れるところまで作れることも大事だと思います。

――意見を出しただけで終わるのは、もったいないですよね。特に仕事では、その後に続く成果として残さないと。

そうなんです。社内外で行う対話の場でも、振り返りができて次のアクションまで促せると効果があったと感じます。余談ですが、こちらのお話は「グラフィック・ハーベスティング」という領域で専門の方がいらっしゃいますのでご興味ある方はぜひ調べてみてください。

さまざまな立場の人が集まったコミュニケーション、個人の思考の整理など、組織でも個人でもグラフィックレコーディングの考え方はいろんな場面で使えるので、手元にある紙とペンからでいいので、描き始めてもらえたらうれしいです。

 

執筆:加藤学宏 編集:ノオト

本稿は2018年3月26日、HRナビに掲載された記事です。

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