五反田計画ITベンチャーと地域の共創メディア

一覧へ戻る

重要なのは明確なプランよりもマインド スタートアップ支援「五反田バレーアクセラレーションプログラム」始動

  • line

品川区とCreww株式会社によるスタートアップ支援企画「五反田バレーアクセラレーションプログラム」が現在、参加事業者・個人事業主を募集しています。ITベンチャー企業が集積する「五反田バレー」で、新たなスタートアップを生み出し、活躍の場を創出するための同プログラム。どういった経緯で始まったのか、どんな内容のプログラムなのか。品川区とCrewwの担当者に話を伺いました。

話を聞いた人

笠原 浩司さん
品川区 地域振興部 商業・ものづくり課創業支援担当主査
品川区生まれ。法政大学卒業後、民間企業を経て2008年に経験者採用で品川区に入区。現在は商業・ものづくり課創業支援担当主査として、創業支援施設のリニューアルやスタートアップ支援を担当する。自宅前にできたジムで人生初の筋トレに挑戦中。

小川 和朗さん
品川区 地域振興部 商業・ものづくり課 産業活性化担当主査
横浜市生まれ。法政大学卒業後、2002年に新卒で品川区に入区。現在は商業・ものづくり課産業活性化担当主査として、中小企業や商店街支援、産学公連携など、幅広い分野で区内産業の活性化に資する事業の企画や実務を担当する。趣味は野球観戦(横浜ベイスターズ)。

伊地知 中さん
Creww株式会社
1981年生まれ。米国ワシントン州のカレッジ在学中に大学の同期生らと初の起業。その後、フィリピン・セブ島のWebシステム開発会社など、国内外において4社にわたる企業の設立に携わる。2014年からCreww株式会社に参画し、スタートアップと大手企業のオープンイノベーションによる事業創出を支援する活動に注力している。

森 浩一さん
Creww株式会社
慶應大学卒業後、株式会社ユニクロに入社。店舗の課題解決、顧客満足度向上など店長業務を従事。その後、アビームコンサルティング株式会社に転職し、メーカー、商社、金融など様々な分野の大企業の課題解決を経て、2018年9月にCreww株式会社に入社。大企業とスタートアップ企業によるオープンイノベーションプログラムの企画立案から運営を最前線で実行している。

品川区×Crewwによる新しいスタートアップ企業を生み出す試み

――まずは「五反田バレーアクセラレーションプログラム」を始めたきっかけを教えてください。

品川区では、産業構造の変化や後継者不足による廃業、先行き不透明な経済状況などにより、事業者数が減少傾向にあります。区の産業の活性化のためには、既存の企業への支援を継続することに加えて、新たな産業の担い手を生み出す取り組みも求められています。

一方、区内の五反田・大崎地域はスタートアップ・ベンチャー企業の集積地「五反田バレー」として認知度が上がっていて、新たなビジネスを始める方が多く集まってきています。

「五反田バレー」については、品川区でも昨年から一般社団法人五反田バレーと連携してスタートアップ企業の皆さんの応援に力を入れてきました。今年度からは、新たなスタートアップ企業を五反田バレーから生み出そうと考え、このプログラムを企画しました。
笠原さん

――どういう経緯で品川区とCrewwがコラボレーションすることになったんですか?

昨年11月に、品川区、五反田バレー、AWS(アマゾンウェブサービス)の三者共催で「オープンイノベーション フォーラム」を開催して、そこにCrewwの森さんに登壇していただいたのがきっかけでした。話を聞いたところ、若くて魅力的で、ぜひ一緒に仕事をしたいと感じたんです。ちょうど今回のプログラムの主旨とCrewwの取り組みがつながったことも大きなポイントでした。
小川さん

――コラボのきっかけとなったCrewwの取り組みとはどんなものなのか教えてください。

2012年の創業からスタートアップ企業の成長支援と事業会社による新規事業創出を目的としたオープンイノベーションプログラムを提供しています。

事業会社は、長年の経営で培ってきた豊富な経営資源を持っているのですが、どのように新しい事業を創出すればいいのかという課題を抱えています。急速な時代の変化のなかで、既存事業だけでなく新たな領域や事業に挑戦して、第二、第三の柱を作らないといけないという課題意識があるんです。

そんな課題を解決する鍵となるのが、スタートアップ。彼らは、いままでにないユニークなサービスやプロダクト、アイデアを持っている。一方で、そのアイデアをどうやって社会につなげていくかが課題になっています。

そこで私たちは、悩んでいる事業会社とスタートアップ同士が出合うことで、補完関係が築けると考えました。現在、約4800社のスタートアップが登録しており、スタートアップ企業と事業会社による新規事業創出を目的としたオープンイノベーションプログラムを約170社の事業会社と実施、これまで約550件の協業を実現してきました。
伊地知さん

――多くのスタートアップ企業をサポートしてきたCrewwから見て、五反田バレーの第一印象はどんなものでしたか?

スタートアップは渋谷に集まりがちなイメージがありますが、賃料相場が安くて、アクセスのいい五反田は魅力的なエリアですよね。しかも品川区のサポートも充実している。イベントなども積極的に開催されていますよね。

横のつながりが強くて、スタートアップ同士で支援し合っている姿が印象的でした。アットホームな環境作りができているなと思います。
森さん

充実したカリキュラムとサポート体制

――「五反田バレーアクセラレーションプログラム」の設計は、これまでのCrewwの知見を生かしたものになっていると思います。特に工夫した点はどこですか?

ただ単に学びをインプットするだけじゃなくて、参加者交流やワークショップなども交えながら、カリキュラムを組みました。

そもそもCreww自体がスタートアップで、2020年8月に9期目を迎えます。これまでにいい意味でも悪い意味でもターニングポイントがあって、私たちの経験についてお話しすることも、これからスタートアップにチャレンジする方にとって重要なヒントにつながると思っています。
伊地知さん

――プログラムをおよそ半年間に設定した意図はありますか?

モチベーションが下がらないように、半年で集中的に進めることですね。スタートアップにとって時間は大切な資源ですから、長過ぎず短過ぎずということで半年間に設定しています。

研修も約2週間おきに入れているんですよ。研修を受けたあとにアクションを起こして、また研修を受ける。それから開始3カ月くらい経ったタイミングの11月にメンタリングを入れていて、個人が抱えている課題などをヒアリングします。一人で悩んで途中で脱落してしまわないよう、サポート体制を整えています。
森さん

――相談に乗ってもらえるのはありがたいです。キックオフでも交流タイムがあるなど、参加者同士の交流も大事にされていますね。

そうですね。プログラム設計当初から「横のつながりを大切にしたい」という思いがありました。ただ、コロナウイルスの影響もあるので、どのように交流していくかは慎重に考えていきたいと思います。
森さん

――おっしゃる通り、まだまだコロナの影響が大きいです。講義などは、オンラインでの実施も視野に入れていますか?

はい。弊社はオンラインツールの活用も得意としていますので、そこは臨機応変に対応していきます。
森さん

――講義を行う講師はどんな方がいますか?

いくつかコンテンツがある中で、ほとんどはCrewwの社員が講師になります。それぞれ起業や経営について得意分野を持つスペシャリストです。

一部の講義では、外部講師を招いてレクチャーしていただきます。弊社が運営するコワーキングスペースで、イベントや勉強会に登壇した方々をお呼びする予定です。

私たち自身、コワーキングスペースを運用する中で、これから事業に挑戦しようとする方からの悩み相談を受ける機会が多いんですよ。スタートアップを始めたいという人たちの相談には柔軟に応えられると思います。
伊地知さん

――スタートアップを始める人が陥りがちな悩みはどんなものがありますか?

やはりお金に関することが多いですね。「資金調達をしたいけど、誰に話していいかわからない」など。一度こちらでお話を聞いて、条件に合ったベンチャーキャピタルの紹介を行います。

あとは事業連携について、「事業会社の担当者と会いたい」とかですね。人材についての悩みもあります。「エンジニアを採用したいんだけど、どうしたらいい?」といった相談も少なくないです。相談者の悩みに合わせて、さまざまなアドバイスを行ってきました。
伊地知さん

重要なのは起業に向けたマインド

――「五反田バレーアクセラレーションプログラム」はどんな事業者に参加してほしいですか?

品川区としては、やはり区に愛着を持って、区内で大きく成長していただける企業が理想です。区内企業との協業や区内での雇用の創出が生まれるといいな、と。ひいては地域の活性化や社会貢献にもつながってほしいと思います。
笠原さん

――受講者の審査基準として6つの要素が挙げられています。この中で、特にポイントとして見ている部分があれば教えてください。

僕は「受講の動機・必要性」ですね。起業は山あり谷あり、さまざまな大変なことがあるので、マインドがないと続かないと思います。それを乗り越えていくための強い思いや目標、やる気を尊重したいです。もちろん、新規性とか市場性も大事なところではあるんですけどね。
小川さん
カブってしまって恐縮なんですが、やはりマインドは重要です。挑戦したいという気持ちですね。私たち自身も、スタートアップがもっと挑戦しやすい世界をつくりたいという思いから起業に至っているので、強い思いを持った人と出会いたいです。ジャンルは特に問いません。
伊地知さん

――Crewwがこれまでサポートしてきたスタートアップで、しっかりとしたマインドを持ち続けて成功した事例について教えてください。

成功に結びつくかには、いろいろな要素があるので一口では言えませんが、自身のバックグラウンドを元に起業された方が多かったです。

たとえば、スマートねこトイレ「TOLETTA(トレッタ)」で創業した堀宏治さん。猫は高齢になると腎臓病になりやすいと言われているんですが、それを飼い主が察知するのは難しいらしいんです。症状が出て病院に連れて行ったらもう末期……みたいなことも珍しくないそう。堀さんは、猫の体重やおしっこの量・回数などを記録し、スマホで健康管理ができる次世代スマートトイレを開発しました。アプリで、飼い主がいち早く猫の異変を察知して、病院に連れていくことができます。

堀さんは動物が大好きで、犬や猫を何度も飼った経験があり、亡くなるたびにショックを受けていたそうです。自分でなんとか改善できないか、という切実な思いから起業されました。そういうマインドが原動力になっていると思います。
伊地知さん

スタートアップのやり方にルールや正解はない

――「五反田バレーアクセラレーションプログラム」を通して、実現したいことはなんですか?

Crewwはスタートアップを成長させていくことを得意としているので、このプログラムに参加してくれた方々は、スタートアップとしてぜひ飛び立ってもらいたいですし、そのために継続的にサポートしていきたいと考えています。

弊社としても独自のアクセラレータプログラムを展開しているので、「五反田バレーアクセラレーションプログラム」を終えた後は、そちらにエントリーしていただくことも可能です。このプログラムだけじゃなくて末長く成長に寄与していきたいなと思います。
森さん
いま五反田・大崎エリアで盛り上がっている、この創業の機運をより高めて、区内外からも起業したいという方が集まってくる地域にしたいと考えています。

品川区は、いままでスタートアップ支援事業以外でも経営支援・融資あっ旋・各種補助金など、他の区と比べても充実した制度を持っています。色々な手法で周知に努めているのですが、「知らなかった」という方も一定数いらっしゃるので、このプログラムを通じて、既存の支援制度も知っていただきたいですね。「起業するなら品川区」というブランドイメージをつくっていければ。
笠原さん
今回のプログラムのパートナー企業は、実はすごいメンバーが集まっているんですよ。AWS、CTC(伊藤忠テクノソリューションズ)、WeWorkなど、みなさん品川区に拠点があります。こういったパートナー企業を含めて品川区全体でスタートアップを応援している姿勢であることをしっかり伝えて、「スタートアップといえば五反田バレー」というイメージを構築していければと思います。

また、パートナー企業からの特典もたくさん提供いただいています。そういった面でも魅力的なプログラムですよ。
小川さん

――確かにSHIP(品川産業支援交流施設)が自由に使えるなど、特典がたくさんありますね。まもなく応募締め切りですが、受講を迷っている方に向けてメッセージをお願いします。

スタートアップの最初の一歩として、ぜひ活用してほしいです。サービスやプロダクトが明確であることよりも必要なのは熱意。サポートしながら私たちもともに成長していきたいと思います。
森さん
スタートアップのやり方にルールはありません。誰も正解なんてわからないんです。迷って悩んでいるのであれば、どんどん応募してください。私たちも一緒にチャレンジします!
伊地知さん
「五反田バレーアクセラレーションプログラム」は、今年度から新たに始めた試みですが、今回だけで終わるつもりはなくて、継続して取り組んでいきたいと考えています。

もちろん、今年度に受講していただいた方のフォローアップも持続していきます。3月に終わってサヨナラするわけではないので、安心して応募してください。今後はビジネスプランコンテストなども開催していきたいと考えていて、こういったITスタートアップの支援は、今年を皮切りにどんどん展開していきたいと思っています。
笠原さん
品川区の新たな産業の担い手になって欲しいです。事業者数が減少傾向にあるので、皆さんの力をお借りして品川区の産業を活性化していきたい。多くの可能性を秘めたスタートアップの人たちが新たなITの技術を使って、これからの五反田バレーを盛り上げてくれることを期待しています。
小川さん

――ありがとうございました。いまはコロナウイルスの影響で身動きが取れなかったり、新しいことに挑戦しづらかったりする時代だと思うので、「五反田バレーアクセラレーションプログラム」のように力強いサポートがあることは、これからスタートアップに挑戦したい人にとって希望になると思いました。

今は、コロナで皆さん大変ですが、ピンチはチャンスですから! 私たちも頑張って魅力的なプログラムを用意しました。熱い思いを持ったみなさんの応募を待っています。
小川さん

(企画・取材・執筆:阿部 綾奈 編集:杉山 大祐 写真:水上 アユミ/ノオト)

五反田バレーアクセラレーションプログラム:https://gotanda-valley.com/

 

  • line
参考になったらクリック
クリックありがとうございます!

こちらの記事についてご意見、コメントがございましたらお願いします。
コメントは非公開であり、今後の五反田バレーの運営のために参考にさせていただきます。

コメントの送信ありがとうございます!