五反田計画ITベンチャーと地域の共創メディア

一覧へ戻る

「生産性が高まるなら、銭湯で仕事したっていい」エンジニアの働き方を銭湯で語る「#エンジニア銭湯」イベントレポート

  • line

大崎の銭湯「金春湯(こんぱるゆ)」で4月6日、エンジニア向けのトークイベント「#エンジニア銭湯」が開催されました。

エンジニア同士の情報交換や交流を目的とした同イベント。主催者は、「株式会社東京銭湯」取締役番頭で「喜楽湯(きらくゆ)」マネジャーの後藤大輔さん、オフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまねさんです。当日は2人に加え、金春湯の角屋文隆さん、株式会社オトバンクの代表の久保田裕也さんが登壇しました。

「エンジニアと銭湯って、相性が良いのでは?」という主催者の発想からスタートした企画とのことですが、一体、両者にどのような関係があるのでしょうか? イベントの様子をお届けします。

銭湯は心のリファクタリング、整いフレームワークは“MVKS”

ライトニングトークのトップバッターは金春湯の角屋文隆さん。角屋さんは現在、平日は国内大手の光学・医療機器メーカーのエンジニアとして働き、週末は実家である金春湯の番台に立っています。

角屋文隆
1985年 大崎の銭湯「金春湯」の長男として生まれる。普段の顔は、国内大手の光学・医療機器メーカーのエンジニア。プログラマ―・プロジェクトマネージャーとして、製品開発に携わる。一方、家業である銭湯の企画・マーケティング・Web運用も担当。銭湯激戦区の品川で、金春湯の存続をかけ、挑戦の日々を送る。

僕は、「銭湯は心のリファクタリング」だと思っているんですよ。エンジニアはコードの悪いところは見つけられても、自分の体の悪いところを見つけるのは苦手という印象があります。

皆さんも仕事をする中で経験があると思うんですが、いくら気をつけてコードを書いていても、必ずどこかに「良くないところ」は溜まっていきますよね。そしてこれは、放置すると取り返しのつかないことになる。そこでコードをチェックするのと同じように、自分の体をきちんと調整するため、エンジニアの皆さんにも銭湯を使った心のリファクタリングを知ってほしいなと思います。
角屋さん
銭湯が好きな人は、お湯に浸かって調子が良くなることを「体が整う」と言います。この感覚は人によってさまざまですが、例えば「恍惚感」とか「自然に笑みがこぼれてくる」とか言いますね。これだけだとちょっとやばい状態に聞こえますが(笑)、要するに「非常に心地よい」状態のことです。

今日は、この「整い」を生みだすためのフレームワークを皆さんに知ってもらいたいんです。開発のデザインパターンで「MVC(Model View Controller)」というのがありますが、サウナを使った整いフレームワークは「MVKS」。MVは水風呂、Kは休憩、Sはサウナを意味しています。

まずはサウナです。8分〜10分間入るのが理想ですが、最初は無理せず、短い時間から始めてください。その後は体を流してから、水風呂に1〜2分。水風呂から上がり、5分〜10分休憩。これをワンセットとして、3回くらい繰り返しましょう。
角屋さん

「みなさんには多分、こう書いたほうが伝わる」(角屋さん)として出されたスライド

僕の身の回りでも、仕事で大変な経験をした人がサウナで回復できた、という話も耳にします。皆さんも、仕事が大変なときはサウナでリファクタリングしてみてはいかがでしょうか。心も体も健康な状態で、良いプロジェクトを世に送り出してほしいな、と思います。
角屋さん

場のルールを「静的・動的」で考える。自由なのは動的ルール

続いて番台に上がった後藤大輔さんは、普段はフリーランスとして仕事をしながら、WEBメディア「東京銭湯 – TOKYO SENTO –」を運営する株式会社東京銭湯の取締役も務めています。

世の中には、いろいろなルールがあります。法律や地域ルール、自分が大切にしているマイルールなどですね。それらがすべてハッキリしていればいいんですが、場のルールが明文化されていなかったり、人の数だけルールがあったりするので複雑なのですが、ざっくり言えば大きく2つに分けられるのではないか、と考えました。それが「静的なルール」と「動的なルール」です
後藤さん

後藤大輔
2005年 名古屋大学大学院卒の後、NTTデータに入社。PJ管理における対人の調整や問題発生時の切り分け・方向付けなどが得意。その後独立し、フリーランスとして企業のコンサルやPMO、監査、ワークショップのファシリテーターなどを実施。並行して、株式会社東京銭湯 取締役番頭として『喜楽湯』のマネージャー及び会社運営全般を行う。銭湯では「温冷浴」というお湯と水風呂を交互に入る入浴スタイル。

「静的なルール」は文言化されていて可変性が低い、例えば法律のようなルールのこと。「動的なルール」とはその場その場で作られる、判断の余地があるものの文言化しづらいルールのことです。会社に限らず、すべての場にはこの2つのルールが存在するんじゃないか、と。

これを銭湯に例えると、代表的な静的なルールは入浴料金です。東京都は大人460円と法律で決まっています。あとは浴室が男女別とか、お風呂に浸かる前は体の汚れを落としましょう、というのが静的なルールですね。

対して動的なルールは、「お湯が熱かったら水で薄めてもいい」とか、「休憩スペースで隣に座っている人と話すか話さないか」とかですね。これらは、自分と相手の関係性や、銭湯の場の雰囲気に左右されますよね。
後藤さん
会社も同じだと思うんです。例えば、「うちは自由だから!」と言う会社でもわがままにやりたい放題だと組織から排除されてしまいます。「自由にやっていい」というのは「動的なルールを作ってもいいよ」という意味じゃないかな、と思います。

動的なルールを扱う上で大事なのは、1つ目は人への興味と場の理解。2つ目が場に存在するルールを抽象化する力。3つ目がゴールを定義して柔軟に運用すること。4つ目が態度としての「かわいげ」。最後にリーダーシップです。
後藤さん

銭湯で考えるなら、自由な空間の中に、お客さんや場の雰囲気も踏まえて、いかにいい感じのルールを作るか。この動的なルールの番人である銭湯の番頭って、すごくクリエイティブな仕事だな、と思っています。会社の働き方も、銭湯と同様に動的なルールはその場で決めたり変えたりしてもいいと考えられれば、普段の仕事も楽しくなると思います。
後藤さん

それが勝ちパターンなら、ダム際で働いたっていい

「人には、それぞれ生産性を上げるための勝ちパターンがある」と話すのは、オフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまねさん。生産性を上げるための「勝ちパターン」について持論を展開しました。

最近の働き方改革の話題を受けて、誰もが「生産性を上げていくためにはどうすれば?」と考えているんじゃないかと思います。しかし結局、「自分の勝ちパターンを実践できている状態」こそが最も生産性が高い状態なんですよ。

例えば、「電話が鳴りっぱなしで気が散って、作業に集中できない」というのは典型的な負けパターンです。他にも「毎朝、満員電車で通勤」「勤務時間は9時17時で固定」とか、「会議は会議室で、関係者は全員集まる」なども、もしかしたら負けパターンに陥っているかもしれません。生産性を高めるためには、自分たちがこんな状態になってないかを本気で議論して、考え方を転換していかないといけません。
沢渡さん

沢渡あまね
1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表(フリーランス) 兼 株式会社なないろのはな 取締役。 業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。IT運用エバンジェリスト。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。運用職種を中心とするITエンジニアの価値向上、モチベーション向上活動にも力を入れる。 著書に『職場の問題地図』(技術評論社)、『業務デザインの発想法』(同上)、『仕事ごっこ』(同上)、『運用☆ちゃんと学ぶシステム運用の基本』(シーアンドアール研究所)など。

そこで私が実践して、発信しているのが、「生産性が高まるなら、どこで仕事したってええやん。銭湯でも、ダム際でもええやん」

私はダムが大好きなんです。試しにダムの脇に車を止めて仕事をしてみたところ、これがすごく集中できるんですよ。「ダム際で仕事」が、私にとっての勝ちパターンです。
沢渡さん
分析してみたところ、メリットは3つありました。1つ目は邪魔が入らないこと。スマートフォンが圏外なダムもあり、余計な電話がかかってきません。

2つ目は、アンガーマネジメント。イラッとするメールが来たとき、オフィスや家の中だとイラッとしたまま即レスしてしまうこともありますよね。でも、今自分がいるのは大好きなダムのすぐ近く。清流の音や小鳥さんの声に耳を澄ませると、なんか許せてしまう(笑)。

3つ目は、ショルダーハッキングされない。周囲に誰もない状態なので、喫茶店で仕事するよりも、よっぽどセキュアです。他にも、車で移動すれば荷物がまとまっているので出張の準備が必要ないし、どこでも作業場所が確保できるし……と、過去に受けた取材でも紹介していますが、とにかく良い事ずくめなんですよ。
沢渡さん

▲ 沢渡さんは、この記事の原稿確認と校正作業も北海道・定山渓ダム際の宿で行った、とのことです

一人ひとり、勝ちパターンは違います。職種単位で違って当然なので、そろそろ真面目に話しあっていこうぜ、というメッセージで締めて、後でお湯に浸かりながら皆さんとお話できればと思います。
沢渡さん

やりたいようにやって欲しいから、まとめるのをやめた

最後に番台に上がったのは、株式会社オトバンク代表取締役社長の久保田裕也さん。オトバンクは、飲み会や打ち合わせを「やらない」という選択をすることで、社員に働きやすい環境を提供できないかと考えているとのこと。

僕は会社の代表なのですが、実はあまり働きたくないんですよ(笑)。だから働き方だって、皆がやりたいようにやればいいじゃん、と考えています。

もちろん、以前は社員をどうやってまとめるのがいいのか考えていました。でも会社って、さまざまな特性や経歴を持つ人が集まる場所なので、まとめるのが大変なんですよ。そこで、「まとめようとする」ことをやめてみました。
久保田さん

久保田裕也
株式会社オトバンク代表取締役社長。東京大学経済学部経済学科卒業後、オトバンクに入社。良質な音声コンテンツを量産する体制の仕組みづくりや、オーディオブック配信サービスのプラットフォームづくり・運営、組織づくりなどを行う。2012年3月より現職。

とりあえずやめたのが満員電車での通勤です。「それぞれが、自分のパフォーマンスが最大になる時間に仕事をする」ことを進めていく一環ですね。

それから飲み会もやめました。皆忙しく働いているので、30人でお店の予約を取っても仕事の都合が合わず、スタート時には6人しかいないみたいなことが起きるんですよ。そうすると、幹事の心が折れます。でも社員同士で喋る機会は欲しいので、ランチ会を定期的に開催することにしました。
久保田さん
あとは情報共有のミーティング。情報を見ることができれば十分なので、チーム単位の情報共有も経営会議も、全部オープンチャンネルに残して、いつでも読めるようにしています。

ちなみに経営会議のミーティング内容は、「経営陣のおきもち会」と名前をつけて、全社員が閲覧できる場所に掲載しています。仰々しくならないようにしつつ、経営チームの考えていることを伝える場ということで「おきもち会」なんだ、と(笑)。

「おきもち会」には、会社の現状について良いことも悪いことも全部書いてあります。ここまで全てを伝えておけば、社員も働いていて感じる不安がなくなります。
久保田さん

▲ イベント当日、久保田さんが使用したスライドはこちらのリンクからご覧いただけます。

結局、オトバンクの社員は好きにやってほしいんですよ。モチベーションを上げる環境を自分で作って、パフォーマンスが上がれば評価が上がる。そうすれば、給料とかポジション、もっと広い自由とか、それぞれの求めるものが与えられる。

社員の働き方は、会社が提供するサービスのクオリティにもつながってきます。オトバンクのマネジメント方法も、まだまだ完成形ではないので、良いものがあればどんどん取り入れていこうと思っています。
久保田さん

エンジニアの強みから、「仕事ごっこ」を減らす方法を考える

後半はトークセッション形式で進められました。

ぜひ皆さんの勝ちパターンを聞いていきたいんですが、角屋さんいかがですか?
沢渡さん
角屋さん
僕は、営業時間外のサウナが一番集中できますね。個室で周囲からは遮断されているんですが、壁が全て木なので不思議と閉塞感がないんですよ。同じ個室でも、カラオケボックスよりもかなり集中できます。

僕はカラオケボックスで仕事していますよ。Wi-Fiもあるし、会議室よりも格安で使えるので。
後藤さん
角屋さん
え! 隣の部屋がうるさかったりしないんですか?
昼は人が少ないので、あまり気にならないですね。音がしてもBGM替わりになるし、なにより寂しくない(笑)
後藤さん

日本の企業って働いているフリをするような「仕事ごっこ」がとにかく多いですよね。フレックス勤務のはずなのに働いているアピールのために朝早く来るとか、協業をスタートさせる前にとりあえず前見積もりを取らないといけないとか。ビジネスの本来価値を提供するためには、この「仕事ごっこ」をいかに削っていくかだと思います
沢渡さん
久保田さん
とりあえず僕は、「ばかなふりをして空気を読まずに発言する」のを意識しているんですよ。自分も経験があるんですが、真面目な人って「これは、どうしてやらないといけないんですか?」というやり取り自体が、やってもやらなくても同じ結果になることをわかっているんです。だから何も言わずにやってしまうので、結果として無駄な仕事が短縮されない。

そしてやるべきことが増えると、人を増やさないといけない。人を増やすと、うまくマネジメントしないと会社がまわらなくなる。でも、無駄な仕事を削れば、その作業をするだけの人を雇う必要がなくなるんですよ。

久保田さん
だから、「これってどうして必要なんだっけ?」と思ったら、僕自らひたすら聞きます。結局、「暇でお金が儲かる」のが一番じゃないですか(笑)

(一同、笑)

久保田さん
僕は、会社でいつもそれを言っているんですよ。本当に雑に言ってしまうと、「努力しないで利益が出るのがベストだから、その方法を考えてほしい」と。
他にも、いくつか仕事を掛け持っている人は、どこか1つで「仕事ごっこ」をやっている暇がなくなりますよね。エンジニアだけでなく別の仕事をやることで見えてくるものもあるかな。後藤さんはいかがでしょうか?
沢渡さん

つい最近、仕事でベトナムに行っていたのですが、その間は自分の担当業務を他のメンバーに依頼していました。それで気付いたのが、自分の仕事って他の人でも問題なくできるんだってこと。自分の仕事の棚卸しができたので、無駄なものをなくす良い機会になりました。
後藤さん
同じ働き方を10年続けていたら、それが悪いやり方だなんて気付かないんですよ。その中でチームとしてのパフォーマンスを上げるために、エンジニアが価値を出せる理由は3つあると思っています。まずは、振り返る文化があること。プロジェクトの中で細かく振り返りをしていく文化を持つエンジニアは、業務改善のプロセスの中では間違いなく強い。

次は、その中で仕事ごっこをやめて、働き方をアップデートしていくこと。仕事ごっこだって、生まれた当初は合理性があるやり方だったんですよ。でも今はテクノロジーで代替できるし、世の中もそこまで求めていない。それならやめる方向で考える。

最後は、楽しさに素直であること。エンジニアって、面倒くさいことはやりたくない、でも楽しいことに夢中になっちゃうっていう性質を持つ人が多い。これがエンジニアの強みじゃないかな。
沢渡さん

久保田さん
僕は、人が働く上でとにかく重要なのが「組織に対して安心感を持ってもらう」ことだと思うんです。やりたいこともできないし、言いたいことも言えない状況だと、会社からなにされるかわからない、という恐怖があるじゃないですか。

そこで、「仕事に対してきちんと向かっていれば、よほどのこと以外はだいたい何でもやっていい」という空気を作れば、あとは皆ちゃんとそれぞれで考えて動いてくれるんですよ。
銭湯って、まさにそうなんですよ。老若男女いろいろな人が来るし、そんな人と人との間で、安心するコミュニティを作らないといけない。だからみんなも一度、銭湯に行けばいいんじゃないかな?(笑) あとはお湯に浸かりながらお話しましょう。
後藤さん

■ 会場情報
金春湯(こんぱるゆ)
住所:141-0032 東京都品川区大崎3-18-8
ウェブサイト:https://kom-pal.com/

(執筆:伊藤 駿/ノオト 編集:阿部綾奈/ノオト)

  • line
参考になったらクリック
クリックありがとうございます!

こちらの記事についてご意見、コメントがございましたらお願いします。
コメントは非公開であり、今後の五反田バレーの運営のために参考にさせていただきます。

コメントの送信ありがとうございます!

おすすめの記事