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コロナ禍からの新しい価値創造。「PowerToスモールビジネス」を提供するfreeeに聞いた、中小企業支援と今後のビジネス環境

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緊急事態宣言が解除されて2カ月。新型コロナウイルスを受けた「新しい生活様式」が提案され、それに向けて動き出す企業も多い一方で、先の数カ月間で経営に受けたダメージが大きく、まだ立ち直ることができない中小企業や個人事業主も少なくありません。

そのような状況を受け、五反田バレー理事企業のfreee株式会社は、中小企業・個人事業主をサポートする数々のサービスと、それらをまとめたプロジェクト「PowerToスモールビジネス」を立ち上げました。

同プロジェクトでは、freeeが提供するクラウド会計サービスだけでなく、企業間で手を組んだアライアンスの紹介やエッセイコンテスト、セミナーの開催なども紹介しています。

freeeがコロナ禍で多種多様な取り組みやサービスを提供する理由とは? そもそも、「PowerToスモールビジネス」をスタートした経緯とは? 同プロジェクトの事務局リーダーを務める銭谷さんと、広報の野澤さんにお話を聞きました。

情報がありすぎる給付金メニューを一箇所に集約したい

——はじめに、「PowerToスモールビジネス」(以下、「PTS」)で提供しているメニューやサービスの内容について教えてください。

現時点だと、大きなメニューは2つあります。1つが「新型コロナ対策融資・持続化給付金利用シミュレーション」です。
銭谷

freee株式会社 ブランドマネージャー・「PowerToスモールビジネス」事務局リーダー 銭谷 侑さん

今回の新型コロナウイルスの影響を受けて、企業への融資や給付金メニューが国や自治体からたくさん提供されています。しかし、「自分の会社はどれを受けられるんだろう」となったとき、調べるのがとても大変なんですよ。どこに行けば情報が集約されているのかよくわからないんです。

そこで、給付金シミュレーションのWebページでは、自社の状況に関するいくつかの質問と過去の売上といった情報を入力するだけで、どの給付金や融資を活用できる可能性があるのか、一覧でチェックすることができます。
銭谷
現在の状況下において、会社の資金繰りは、経営者の一番の課題だと思います。シミュレーターは5月中旬の公開以降、1万7,000人以上の人に使っていただいています。

2つ目が、従来の機能をアップデートした「freee 受発注サービスβ版」。受注・発注のやりとりを楽にして、スモールビジネス同士の取引を活発にするサービスのプロトタイプ版として、昨年12月から公開しているものです。

発注者と受注者が、クラウド上で見積書・発注書・請求書の作成と確認を一気通貫で行える従来の機能に加えて、コロナ禍を受けて「つながる機能」や「仕事を募集できる機能」を新たに追加しました。
銭谷

登録しているユーザーは、他のユーザーに向けて自分の稼働状況をステータスで知らせることができます。たとえば、仕事がありすぎて困っている人が、逆に仕事がなくて困っている人を見つけて声をかける……といった動作がプラットフォーム上で行えます。

コロナ禍の影響で仕事が減ってしまったスモールビジネス事業者も少なくない。そこで、スモールビジネスの事業者同士で仕事を頼み合い、つながりを作るためのサービスです。
銭谷

——実際に、融資や給付金メニューにはどのくらいの種類があるのでしょうか。

自治体がオリジナルで提供しているものまで含めると相当数、数百もの種類があります。「給付金シミュレーション」で表示の対象になっているのは、その中でも国が提供している14種類ですね。
野澤
中小企業と個人事業主でそれぞれ状況は違うので一概には言えませんが、メニューの検索を難しいと感じられている方はたくさんいます。税理士に相談したり、人によっては身近な経営者仲間に相談したりするケースもあるらしいのですが、業態によってメニューが違うので、参考にしづらいようです。

そして、情報が常に変わっていくんです。「この情報は最新のものですか?」という問い合わせはお客さんからも多く、一通りの情報はfreee社内で追いかけるようにしています。とはいえ昨日の今日で対応は難しいのですが、なるべく最新の情報を表示するようにしています。
銭谷

「給付金 品川区」で検索すると、約150万件のヒットが。公式アナウンスである区のWebサイトのほか、ニュースサイト、個人のブログ、給付金の解説をするYouTuberの動画といった情報が散見される。

——Webサイトのオープンは4月21日でした。freee社内ではどのような話し合いのもと、この取り組みが始まったのでしょう?

「PTS」というプロジェクトの名前がつく前から、コロナ禍を受けたいろいろな企業支援メニューがfreeeの各部署で立ち上がっていたんですよ。

緊急事態宣言以降のスモールビジネスの経営が厳しくなっていることを受け、なにかできることはないかとそれぞれの社員が考えた結果、各部署から草の根的なプロジェクトが生まれていたんです。トップダウンで「コロナ禍のスモールビジネス支援のサービスを考えろ」と指示が出たわけではなく、あくまでもそれぞれの部署が自発的に行っていたものでした。

そこで、立ち上がったプロジェクトをバラバラにしておくのではなく1つの場所に集約しようということで設けたのが「PTS」です。
銭谷

——Webサイトのオープン日が、緊急事態宣言が発令された4月7日からちょうど2週間後だったのは、なにか意図があったのでしょうか?

いえ、わざわざその日を狙ったのではなく、1日でも早いオープンを目指した結果その日になった……という感じですね。オープン時は項目もまだ少なくて、とにかく現時点で出せる情報だけが載っている、ティザーサイトのような作りだったんですよ。そこから情報を追加していって、ようやく現在のような状況になりました。
銭谷

実用的な自社サービスだけでなく「心の支援」もしていきたい

——「給付金シミュレーション」と「受発注サービス」というメインサービス2種の他にも、コロナ禍のビジネスや給付金関連でいろいろな取り組みをされているんですね。

大きいのは「#取引先にもリモートワークを」でしょうか。

これは一言でいうと、世の中をあげてリモートワークを推進していこう、という取り組みですね。仕事を継続しながら社員を守るためリモートワークを行う企業は多いですが、これを一部のIT企業内での変化にとどめるのではなく、IT業界以外の企業や地方の中小企業などにも広げていこう、というアライアンスです。
銭谷

実際のところ、中小企業が自社だけでリモートワークやデジタルトランスフォーメーションを広げていくのは難しいんですよ。スモールビジネス事業者は基本的に大企業と取引があるので、大企業からの協力も必要不可欠です。
銭谷

——確かに、いくら自社が社員の健康に気を使いリモートワークで業務を進めていて、Web会議で十分な打ち合わせでも、大事なクライアントさんから「対面でやりましょう!」と提案されたら断りづらいですよね。

もちろん、リアルで会ったほうがコミュニケーションの質が上がるときもあるし、参加者の安全を取ってリモートでやったほうがいいことがあります。リアルにはリアル、リモートにはリモートの良さがあるので一概には言えないのですが……。

このアライアンスを立ち上げてから、さまざまな企業から「アクションの宣言」をいただきました。たとえばアライアンス発足時に、楽天さんが出されたプレスリリースには、企業の枠を越えてリモートワークを推進していく本気度を感じました。「取引先にも」という部分に、多くの企業が共感することで、アライアンスの輪が広がっています。
銭谷
ITが専門でない企業や、東京都などの地方自治体にも参加いただき、賛同企業も100社を超えてきています。
野澤

freee株式会社 広報 野澤真季さん

他には食品メーカーのカルビーさんですね。カルビーさんは、社員のリモートワークを無期限に延長して、単身赴任も解除されたそうです。IT企業以外から声が上がるようになったのは、ものすごく良い影響だと思っています。
銭谷

——他にも、メディアプラットフォームである「note」さんと共同で、投稿コンテストも開催していました。

給付金の使い道を考える、投稿コンテスト「#給付金をきっかけに」ですね。

「給付金シミュレーション」などのサービスは、ほとんどが事業者向きのものです。なので、一般の人も巻き込みながら、スモールビジネス支援を行う方法を考えました。「#給付金をきっかけに」は「給付金をなにに使いますか?」という問いかけから、より意味のあるお金の使い道を広げていくキャンペーンです。
銭谷

給付金は、「ただのお金」というより「一人ひとりのストーリーをまとったお金」でもあると考えています。貯金する人もいれば、欲しい物を買ったり、人のために使ったり……。他には、好きなお店で買い物するとか、行きつけの店で食事をするとか、支援や応援に使う人もいると思うんです。

そういった一人ひとりのエピソードを集めることで、スモールビジネスについて考えたり、応援するきっかけをつくりたいと思って開催しました。「給付金シミュレーション」が実用的な支援とするなら、こちらは「気持ちの支援」です。スモールビジネスの企業へ提供したいパワーも一種類じゃないですから。
銭谷

「マイナスをゼロにしたい」4月から、「プラスを求める」状況へ

——新型コロナウイルスの感染状況はまだまだ予断を許さない状況が続きますが、スモールビジネスを取り巻く状況は緊急事態宣言の発令前と後でどのように変化したのでしょうか?

3月や4月は、資金繰りを中心に「なんとかして経営を維持したい」というマイナスをゼロにするための相談が多かったところから、少しずつ「ゼロ」ではなく「プラス」を求める相談が増えてきた印象があります。
銭谷

▼新型コロナウイルスがスモールビジネスの経営に与えている影響の調査について

freeeが6月23日に公開した中小企業の経営状態の調査。「売上高前年同月比50%未満の事業者割合」を見ると、2020年4月には大きな山ができている「飲食」「生活関連サービス」事業者の項目だが、次月(2020年5月)には多少なり落ち着いている様子が見て取れる。

給付金のなかには、「IT導入補助金」などの企業のデジタルトランスフォーメーションを推進するために使用できるものもあります。デジタル化が進めば、経営方法やビジネスのやり方を今まで以上にスマートにしていくこともできる。「PTS」では、スモールビジネスの経営をより強くする活動もしていきたいです。
銭谷

Webサイト「ザ・ピンチヒッター」も「PTS」の取組みのひとつ。支援メニューの検索サービスだけでなく、中小事業者へのインタビューを通して、コロナ禍における経営の情報収集を行うことができる。

——その他、今回のコロナ禍をきっかけに感じた変化はありますか?

これは私の主観ですが、いままでデジタルが苦手だった企業も含めて、より多くの企業がデジタルを使いこなすようになったという感覚があります。

たとえば、「融資や給付金に関して、Web上で自分に必要な情報を調べて申請まで行う」……といった状況でしょうか。実際に、給付金シミュレーションは最初の1カ月で約1万人の方に使っていただけました。また各種Webセミナーにも、地方企業も含めてたくさんの企業の方にご参加いただいております。
銭谷
別サービスについてユーザーインタビューを行った際には、「サービスを非対面で受けられることも魅力だった」とおっしゃる方もいました。「相談したいけど、こういった時期だからわざわざ人に会って相談はできない」という方にとっても、オンライン完結型のサービスは魅力的だったんだと思います。
野澤

スモールビジネス事業者の変化を後押しし、価値創造しやすい状況へ

——「PTS」の取組みを通して、実現したい将来イメージとはどのようなものでしょうか? 中長期的な目標がありましたら、教えてください。

当面は、より多くの人・企業に向けて必要な情報を届けていくことをやっていきたいと思っています。

中長期的には「マイナスをゼロに」ではなく「マイナスをプラスに」という働きかけをやっていくのが目標ですが、これは少なくともすぐ終わる活動ではないんですよね。世の中の動向が、1カ月後、2カ月後どうなっているのか全く読めないし、そのときのニーズも現在と全然違っている可能性もあります。

一方で、コロナ禍をきっかけにデジタルトランスフォーメーションを行う企業が増えています。業務プロセスや働き方を進化させることで生産性を向上させたり、デジタル化で生まれた余裕でもっと別の業務に注力できるようになったりするかもしれない。

スモールビジネス事業者の変化を後押しして、イノベーションが生まれやすい土壌を作っていけたらなと思っています。
銭谷

——スモールビジネス事業者への資金繰りサポートだけでなく、彼らのビジネス環境を変化させていくんだ、と。

もともとfreeeが提供しているのは、クラウド会計ソフトや人事総務ソフトなどのサービスです。

しかし、サービスを通して真に提供したいのは、freeeのサービスを利用することで、自然と会社経営が軽く、スマートになった状況なんです。会社経営のなかで発生する面倒なもの、わずらわしいものを我々のサービスを活用することで、経営がスマートになって、本来の人が注力すべきところに注力してほしい、と。
銭谷
コロナ禍においてリモートワークの必要に迫られる時代、バックオフィス業務のクラウド化など、効率的な手段の選択が求められています。現在は「変化」を推進しやすいチャンスだと捉えています。
野澤
freeeのサービスを利用する体験が、スモールビジネスの経営にとって良い影響になるとうれしいですね。
銭谷

【取材協力】freee株式会社

東京都品川区西五反田2-8-1 五反田ファーストビル 9F https://corp.freee.co.jp/

(※ 情報はすべて、2020年8月5日時点のものです)

(取材・文=伊藤 駿/編集=阿部 綾奈)

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