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ライフスタイルとしての「起業」を考える freee出版発・雑誌『起業時代』編集長登壇イベントレポート

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2022年5月18日、西大井創業支援センターにて、イベント『freee出版『起業時代』編集長に聞く、「やりたいこと」や「できること」で無理せず挑戦する起業家たち』が開催されました。

ゲストスピーカーとして招かれたのは、五反田バレー理事企業であるfreee株式会社より創刊された雑誌『起業時代(きぎょーじだい)』編集長の井口侑紀(ゆうき)さん。freee株式会社に所属しながら、自身も個人事業主である井口さんは、起業や働き方に対するどのようなメッセージを同誌に込めたのでしょうか。

イベントは、井口さんが雑誌『起業時代』創刊の背景を語る第一部と、井口さんと西大井創業支援センター・インキュベーションマネージャー、朝比奈さんによるパネルディスカッションの二部構成。「起業とライフスタイル」や「起業の準備や心構え」など、イベント参加者を交えて濃密なディスカッションが行われた、その模様をご紹介します。

ゲストスピーカー 井口侑紀(いぐち・ゆうき)さん
大学卒業後、エンジニア、マーケターとしての経験を積みながら、編集者としても活動。Web事業会社にて資格や人材に関するWebメディアを複数立ち上げ。その後マイナビにて新規事業部門での農業メディア、人材サービス開発を担当。2021年『起業時代』立ち上げのためにfreeeへ。編集長に就任。その他、個人事業主として農業を支援するプロジェクトにも参画中。

就職や転職のように、「起業」を選択しやすくしたい

『起業時代』は、日本中のスモールビジネスを盛り上げようと、起業へのハードルを少しでも下げるために創刊した雑誌です。立ち上げにあたり、「起業を決めた人の障壁を取り除く」、「起業を考えている人の迷いに寄り添う」、「起業が当たり前に選択肢に入るようにする」という3つの目的を掲げました。

「ふつうの人が、フツーに起業できる時代へ」というのが、『起業時代』のコンセプトです。

起業というと「今までにないビジネスモデルを生み出す」というモチベーションの方もいらっしゃいますが、事業内容は、必ずしもそこまで特別なものでなくてもいいと思っているんです。特別な選択ではなく、就職や転職と同じように、1つのライフスタイルとして起業がある。自分の生活を考えるときに、「起業」という選択肢がもっと身近になるように、というイメージですね。
井口さん

「起業時代」の特徴は大きく4つあります。まずは、会社設立と個人開業、その両方を「起業」として扱うこと。どちらも自分のビジネスを起こすということでは共通しているので、「これだけ読めば大丈夫」というように、必要な情報を網羅できるようにしました。

次は、起業に至るまでの段取りがまとまっている、実用的な内容であること。できるだけ難しい言葉は使わずに、ということも心がけています。もうひとつが、先輩起業家の「リアルな体験談」が読めること。起業の良い面だけを取り上げるのではなく、苦労や悩みにも寄り添った、誇張のない体験談をまとめています。

そして、全体でポジティブな表現を使用することはとても意識しました。どうしても起業に関する本を作ろうとすると「起業するならこのくらい知っていて当然」と読者にプレッシャーを掛けるような内容になってしまいそうになるんですよね。でも『起業時代』はあくまでも読者の伴走者です。上から目線ではなく、起業へ前向きになれる内容を目指しました。
井口さん

そして一緒に、『起業時代』で「やらないこと」も決めました

ひとつは、「儲かる起業」や「稼げる業種」の紹介はしない。そして、「起業=正しい」という価値観を押し付けない、ということ。先にお伝えしたように、『起業時代』は、起業をひとつのライフスタイルだと/考えています。「お金儲けよりも、生き方としての起業」を伝えていきたいな、と思っています。

もうひとつが、「freeeプロダクトの必要以上の宣伝はやらない」ということ。あくまでもテーマは起業・開業なので、そこはフラットに、自社プロダクトだからといって贔屓せずに取り扱うようにしました。
井口さん

▲雑誌『起業時代』は、起業に必要な情報のほか、先輩起業家のインタビューも多数掲載されている

一口に「起業に興味がある人」といっても、「もう決断して、準備しようとしている人」や「決めかねている人」、「起業をまだ具体的に考えていない人」まで、いろいろな方がいると思うんですよね。もう起業を決めた人は、『起業時代』から起業までの段取りの方法を読んでもらいたいし、決めかねている人は先輩起業家の体験談を読んでもらいたいです。

僕は、『起業時代』はビジネス誌ではなく、ライフスタイル誌だと思っています。ですので、起業をまだ考えていない人は、「起業した人のライフスタイル」を読んでもらいたい。どんな方でも、一度『起業時代』を手にとってもらえればと思っています。
井口さん

起業を通して、「自分らしくはたらく」を考える

第二部は、井口さんと西大井創業支援センター・インキュベーションマネージャーの朝比奈(信弘)さんの2名で、イベント参加者からの質問を起点にしたディスカッションが行われました。

起業に興味はあるのですが、自分にそういった能力があるのか不安です。自分のような悩みを持つ人は、どういった準備をすればよいのでしょうか?
参加者より
これは……そもそも、「起業する能力」というのがどういう能力か、という話ですよね。自分が起業したときに能力があったかだって定かではないですし、『起業時代』のコンセプトも「ふつうの人が、フツーに起業できる」ですから。

起業って、特別な能力が必要なわけではないと思うんですよ。それでも能力が心配なのであれば、自分のできる範囲で何かしらの努力をするとか、事業のコンセプトを身近な人に話して聞いてもらうとか。なにかを作る事業を考えているのであれば、とりあえず作ってみる、というのもアリでしょうし。
井口さん
朝比奈さん
私も同じことを考えていました。「事業構想を人に話す」というのはとても重要なんです。頭の中が整理できていないと、そもそも人に説明することができないので。

そしていろいろな人に説明する経験を積んでいくと、5人目くらいで、話し方や伝え方はもちろん、構想がどんどん洗練されてくるんですよ。発信することが起業準備になる、というのは間違いないと思っています
話をするなら「いいね、いいね」と言ってくれる人だけじゃなくて、真剣に聞いてくれる人や、少し心理的に距離がある人に聞いてみるのもいいかもしれないですね。忌憚のない意見がもらえるので。
井口さん
朝比奈さん
起業の準備段階で「これがしたい」という話をしていると、たまに「私も!」という人が出てくるんですよ。気持ちを伝えることって、人と人を結びつける力があるんですよね。

そこで出会った方が後々の協力者になったりすることもありますし。とにかく発信する、というのは第一歩としてちょうどいいかもしれません。

▲西大井創業支援センター・インキュベーションマネージャー 朝比奈信弘さん

起業をするにあたって、事業が失敗したときのことは想定していたほうが良いのでしょうか?
参加者より
朝比奈さん
確かに、起業だと失敗を気にする人も多いですよね。とはいえ、「どうなったら失敗とするのか」という定義も、結構あいまいだったりしませんか?
そうですね。事業が立ち行かなくなってしまうこともありますが、そこで「じゃあ違うことをやろう」と切り替える人もいますし、もちろん諦めずに突き詰めていく人もいる。

なんなら会社に戻る人もいますし……事業が立ち行かなくなったら「もうダメだ!」となるのではなく、次の自分の道を考える、という方が多いかもしれません
井口さん
朝比奈さん
あくまでも事業って、仕事をして収入を得るための手段でしかないので。機械で考えると、動かしているエンジンがうまく動かなければ、別のエンジンを動かしますよね。だから、事業が失敗したとしても、「この起業が失敗した」というわけではないんですよ。それに、近年は起業経験者を採用したいメガスタートアップ系の企業も多いですからね。
確かに、すごく増えていますよね。freeeだってそうですし。
井口さん
朝比奈さん
リカバリーの方法はそれぞれですが、「失敗=人生が終わり」ではないんですよね。起業して、経験を得た。仲間も得た。それを持ってサラリーマンに戻るとしても、「それはそれ」。次に向かう第一歩と考えるのがいいかもしれません。
まさしく、おっしゃるとおりですね。
井口さん

井口さんが考える「はたらく」ってなんですか?
スライドより
朝比奈さん
これは難しい質問だと思うのですが(笑)、ぜひ伺ってみたいと思った私からの質問です。井口さん、いかがでしょうか?
とても悩む質問ですが……。「はたらく」に対する考え方は、その時の気持ちやライフステージによって、都度都度、変わっていいと思っています。

個人的な話をすると、新卒の頃は「はたらく=暇つぶし」だと思っていたんですよ(笑)。もちろんネガティブな意味ではなく、人生を長いスパンで考えたときに、働いていないと暇じゃないですか。そう考えられれば、「はたらく」ことに対してハードルが下がるし、必要以上に悩まなくてもいいんじゃないか、と。

今は、そこからもう少し考えを深めて、「どうせ暇つぶしなんだから、もっと主体的になって、自分が楽しいことをやればいいのでは」と考えています。なので、「自分らしく生きるために、どうすればいいのかを考える」ということが、「はたらく」ということなのかもしれません
井口さん
朝比奈さん
そうですね。起業したからといって、「はたらく」から開放されることはありません。でも、「はたらく」ことに結びついている気持ちが変わることはあるのかな、と思っています。

これまでは「ただ、やる」だったものが、誰かを喜ばせたり、自分を幸せにしたりする行為になるんです。井口さんの先ほどの言葉のように、起業をするわけでなくても、「はたらく」をなるべく前向きに考えられるようになるといいですよね。

取材・文=伊藤 駿/編集=ノオト

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