freee株式会社は、2022年8月より本社オフィスを「アートヴィレッジ大崎セントラルタワー」に移転しました。社員数が倍増したことに伴い、オフィスは約2倍の広さになったといいます。
コロナ禍以降リモートワークが普及したなかで、オフィスを移転させた理由は何でしょうか? また、 新オフィスのコンセプトとは? 新オフィスの設計に携わった水口めぐみさんにお話を聞きました。
リモートワークを経て、対面コミュニケーションの重要性に気づいた
ーー今回のオフィス移転は、いつ頃から計画が始まっていたのでしょうか?
水口 検討を始めたのは、2019年頃と聞いています。社員が増えるなか、前のオフィスでは机が足りない状態が続いていたそうで……。ただ、その後コロナ禍に入り、2020年3月に全社的にリモートワークへ移行することになったので、移転の計画はストップしていたとのことでした。
ーーfreeeさんはリモートワーク体制下でも全社的なイベントをうまく実施していたイメージがあるので、このタイミングでのオフィス移転は意外に思いました。
水口 「freee Spirit(フリースピリット、通称・フリスピ)」のことですよね。年に1度、全社員が集まって今後のビジョンや組織体制について考えるという内容で、コロナ禍では配信やコミュニケーションツールを活用することで、オンラインでも楽しめるイベントになっていたと思います。
しかし、オンラインイベントやリモートワークは移動時間の削減や大勢が集まりやすいなど利便性を感じる一方で、対面でのコミュニケーションの重要性を感じるようにもなっていきました。
リモートワーク下で、オンラインでのコミュニケーションの恩恵を感じる一方、本来なら立ち話でちょっと話せば済むことも、わざわざ30分のオンラインミーティングをセッティングして……となると、非効率的に感じてしまって。
オンラインでのコミュニケーションを工夫しつつも、オフラインの大切さを再認識したこともあり、ストップしていた移転の検討を再開させ、今回の移転に至ったという経緯です。
ーー今回、西五反田から大崎に移転しましたが、どうして大崎エリアを選んだのでしょうか。
水口 freeeの福利厚生である住宅補助の関係上、オフィスから規定の範囲内に住むと補助が出るので、多くの社員が五反田近辺に住んでいます。いきなり別のエリアに移転してしまうと、社員の家から離れてしまって、オフィスに行きづらくなってしまうので、今回は大崎に決めました。
ちなみに、移転先の条件として、1フロアになるべく多くの社員が集約できるオフィスビルを探していました。以前は11階建てのビルの8.5フロア分をfreeeのオフィスとして使っていましたが、広さの都合上、同じ部署の社員が別フロアに席を持つこともあったんです。
今回の移転でオフィスが広くなり、4フロアになったことで、同じ部署はもちろん、関連部署含めて1つのフロアに席を持てるようになりました。
コンセプトは「たのしさダイバーシティ」 社員の夢が詰まったオフィスに
ーー新オフィスのコンセプトはどういったものでしょうか?
水口 コンセプトは「たのしさダイバーシティ」です。とにかく楽しさを追求することを一番に考えて、どんな人でもその人にとっての楽しさが見つけられてワクワクできる、創造的に働ける環境を作ろう、という方針ですね。オフィスは楽しすぎるくらいがちょうどいいのでは、と。
ーーそのコンセプトを、どのようにオフィスレイアウトへ落とし込んでいったのでしょうか。
水口 社内SNSで「新しいオフィスに何が必要か」を社員に投げかけたところ、さまざまな意見が集まりました。なかには、半ば妄想や大喜利状態になっているような意見も(笑)。
そうして集めた意見を参考に、会社のカルチャーやブランドイメージなどと照らし合わせながら作っていきました。結果、みんなの夢が詰まった楽しいオフィスにできたと思います。
ーーそれでは、“たのしさ”を体現させたスペースをご紹介いただけますでしょうか。
水口 まずご紹介するのは「シャショク」です。こちらは、社員がセレクトしたオーブンや業務用の冷蔵庫を設置したキッチン機能付きの会議室です。自宅ではできないような調理ができれば、オフィスに行く楽しみが増えるのではないかと思い、このようなスペースを作りました。その場で調理したものを食べながら会議をするため、夜に予約する人も多いです。
次にキャンプスペース「やほやほキャンプ場」です。椅子やテントなどキャンプ場で本格的に使われているものをそろえました。ハンモックで休憩したり、火力を使わないキャンプ飯を食べたりといった使われ方をしています
別のフロアの同じ場所には、ビーチを再現したスペース「HALOHALOビーチ」もあります。こちらはクッション性のある素材を使った床が砂浜を表現しています。
このようなスペースのなかでも、特に異彩を放っているのは「ゲンブツシキュウ」と名付けられた会議室。こちらは昭和を感じさせる駄菓子屋をモチーフにしたスペースで、実際に置いてある駄菓子やアイスは社員に無料提供しています。
ーーいずれも、まさに社員の方々の夢が詰まった楽しい空間ですね。
水口 そうですね。単にアイデアを募っただけではなくて、これらのスペースに何を設置するのか、有志の社員がサブプロジェクトとして考えてくれました。
リモートワークで感じた情報不足 オフィスだからこそ得られる視覚情報
ーー移転が完了した現在でも、リモートワークとオフィスへの出社と両方のスタイルで働いていると思いますが、それぞれの比率はどのくらいでしょうか。
水口 エンジニア職は週1回以上出社、そのほか営業や広報などのビジネス職は週3回以上出社です。対面でのコミュニケーションをしてもらうべく、なるべく一緒のタイミングで出社してほしい思いがあるので、曜日も指定しています。
ーーリモートワークを経験すると、オフィスなしでも働けると感じる人が多いのではないかと思います。withコロナ時代におけるオフィスの在り方について、意見をお聞かせいただけますか。
水口 やはり対面コミュニケーションがポイントではないでしょうか。現在、freeeは半数以上の社員がリモート体制下で入社しておりまして、私もその一人です。
個人的な話になってしまいますが、コロナ禍前なら1年くらい働いていれば、同僚の名前を200人は覚えていたと思うんですよ。しかし、今はそこまで覚えていないな、と。
コロナ禍前と違うのは、コミュニケーションがオンライン中心になっているところです。オンライン会議ツールは便利ですが、画面上に上半身のみが映っているだけでは、私としては情報が足りないと感じていました。実際に会って話してみたら、オンラインで感じていた印象と大きく変わったなんてこともありますし。
私たちはクラウド会計ソフトを提供している会社で、ツールを活用することで場所を選ばず業務の効率化ができると考える一方で、社員同士のコミュニケーションはツールでは効率化できないという考えもあります。
社員同士のコミュニケーションを円滑にする場として、オフィスの価値は今後もなくならないと思っています。
文=杉山大祐/編集=ノオト