感染拡大を続ける新型コロナウイルス。家計への支援を目的とした国による「特別定額給付金」に続き、品川区は6月1日、独自の支援事業「しながわ活力応援給付金」の実施を発表しました。
さらに品川区は、同事業に関するチャットボットを公式サイト上で公開。8月3日からは公式LINEアカウントの運用もスタートしました。本日8月18日からは、チャットボットやLINEを利用して24時間いつでも申請状況の確認が可能になるなど、区民からの問い合わせに対応するためにさまざまな取り組みを行っています。
前例のないコロナ禍において新たなチャレンジを決めた理由について、品川区 地域振興部 しながわ活力応援給付金担当課長の宮澤 俊太さんと、チャットボットを開発・提供したモビルス株式会社 代表取締役社長の石井 智宏さんに話を聞きました。
宮澤 俊太さん
品川区 地域振興部しながわ活力応援給付金担当課長
2005年品川l区入区。税務課・総務課を経て2017年地域活動課品川第一地域センター所長として、町会自治会の活動支援に従事。2020年4月協働・国際担当課長。同6月より品川区の新型コロナウイルス対策の取組である区独自給付金に対応するため現職を兼務。
石井 智宏さん
モビルス株式会社 代表取締役社長
1998年 早稲田大学卒、2009年 ペンシルベニア大学ウォートンMBA取得。ソニー株式会社にて11年ラテンアメリカ市場におけるセールスマーケティングに従事。MBA取得後、国内投資ファンドにて執行役員。その後ソニー会長率いるクオンタムリープ株式会社のエグゼクティブパートナーとして多数の日本企業の海外進出を実行支援。2014年モビルスに参画。
特別定額給付金の反省を生かして Webシステムで区民の不安を解消
――最初に「しながわ活力応援給付金」について教えてください。
そこで品川区では、区の貯金にあたる財政調整基金を活用して、区民のみなさま1人につき3万円、中学生以下はそれに2万円を加算した5万円を支給することを決めました。区民の経済的負担を軽減し、区全体の活力を取り戻すことを目的に給付事業に踏み切ったのです。
――8月5日から申請書類の発送が始まり、翌日から申請書の受付が行われています。現在の申請状況はいかがでしょうか?
――私も申請しましたが、特別定額給付金と同じ銀行口座に振り込みの場合であれば、申請書の記入事項も少なく、すぐに対応することができました。さらに、チャットボットやLINEでも詳細を知ることができるのですごく便利でした。チャットボットを開発しようと思ったのはなぜだったのですか?
しながわ活力応援給付金を実施するにあたっても、問い合わせが集中することは当然予想できました。区民のみなさんの問い合わせにきちんと対応できるようにするにはどうしたらいいのか考えたときに、もちろん今回もコールセンターを設けていますが、それ以外に区民の方が給付金について確認できる仕組みを構築して、疑問を少しでも解消したいと考えたのです。そして、チャットボットの開発を思いつきました。
――コールセンターの人員確保などではなく、チャットボットというWebシステムの開発を思いついたのには何か理由がありますか?
そういった課題を解消するために、チャットボットを活用して、区民の方に24時間いつでも情報を提供できるようなサービスを始めようと思ったんです。
誰もが気軽に利用できるように 重要視したのは「シンプル」「タイムリー」
――チャットボットの開発・提供をモビルスに依頼した経緯を教えてください。
何より区内に拠点を置く企業であり、区と連携協定を締結している五反田バレーの会員企業ということで、区の事情に精通されていることも決め手でした。私たちの要望を理解してくださり、スムーズに業務に反映してくれると考えました。実際、運用に関するアドバイスや情報共有もしていただいて、しながわ活力応援給付金の運用にスピード感を持って対応していただけました。
――今回活用されている、モビルスのチャットボットシステム「mobiAgent(モビエージェント)」について教えてください。
チャットボットと一口に言ってもいろいろな種類があるんですよ。AIを使って多くの質問から聞かれたことに答えていく「一問一答型」や、決まった選択肢の中でユーザーが選んでいく「シナリオ型」と呼ばれるものなどがあり、今回、品川区で利用いただいているのはこのシナリオ型です。
ほかにも、チャットボットでは答えきれない場合に、エスカレーションして有人のオペレーター対応に切り替えていくものなどもあります。こういった顧客の要望に合わせて、AIと有人対応の連携をスムーズに行えることがモビエージェントの強みの1つですね。
――8月3日からは品川区の公式LINEアカウントもスタートしました。これまでTwitterなどSNSでの情報発信も積極的にされている印象でしたが、LINEを開設した理由を教えてください。
――しながわ活力応援給付金のチャットボットやLINEの開発にあたって、機能面で特にこだわった点を教えてください。
給付金に関する話題に絞られているので、徹底的にシンプルに、そしてやはりタイムリーに導入することを重要視しました。
開発の担当メンバーは福岡市など自治体での導入事例も経験しています。ノウハウが溜まっていたことも功を奏し、いいタイミングでお届けできたと思っています。 開発時点から、やはり18日からの申請状況の確認が肝だなと思っていました。ほとんどのユーザーさんはこれを聞きたいんですよね。なので、一番大変になる申請状況の確認をチャットボットがサポートすることで、対応される職員の方の負担も軽減できると思います。
――しながわ活力応援給付金のチャットボット、LINEの相談項目はどのように設定しましたか?
また現在もしながわ活力応援給付金のコールセンターにも問い合わせが寄せられているので、特に多い内容をなども今後チャットボットに反映させていきたいと思っています。
LINEについては文字数制限もあります。文字数に合わせて文章の内容を変更するなど、弊社と品川区の担当者さんとで一緒につくっていきました。
ユーザー・職員にとってもいい環境を コロナ禍で見えた働き方の課題
――今後、チャットボットやLINEをどのように活用していきたいか、展望をお聞かせください。
やはり、いただいた問い合わせに対して「確認して折り返します」といったようなタイムラグによるストレスを与えないようにしていきたいです。これからも区民のみなさまに必要な情報を届けられるように、タイムリーに発信していく体制を整えたいと思います。
そういった状況はユーザーにもストレスがかかるし、何より対応する職員の業務にも影響が大きい。チャットサポート事業を行う私たちとしては、そんな事態を防ぐことが大事だと考えています。
ユーザーがコールセンターに問い合わせる理由のことを「コールリーズン」と言います。ユーザーがどういったことを問い合わせたいのか、どんな内容で手続きが発生しているのか、これらを把握することが重要です。
それに今回は、LINEが始まったことも大きいと思います。LINEの特性は、コミュニティがつくれることと、配信すると見てくれる確率がとても高いということ。こういったLINEの特性を生かしつつ、公式サイトやTwitter、電話での対応などうまくバランスをとって、運用していただければ。
そして、たとえば今までコールセンターを担当していた職員さんが、時間がかかっていた問い合わせ対応から解放されて、別の仕事にチャレンジできたり、新しいサービスをつくったりできるような環境になればいいですね。
――ありがとうございました。それでは、最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
それを受けて、しながわ活力応援給付金については、前回の反省を踏まえて、改善できるところを考え、チャットボットなどのデジタル技術を活用して業務を効率的に進めていく体制にしました。少しでも早く区民のみなさまに給付金をお届けできるように努力していきます。
それに伴い、在宅勤務も広がりました。いま、在宅でコンタクトセンターのオペレーションを行う取り組みも増えています。
在宅勤務では、情報セキュリティ上の課題もまだまだあります。私たちとしては、在宅勤務をより効率的に安全にできるように、できるだけお手伝いしたいと考えています。実際、私たちのツールにも在宅オペレーション向けの機能を搭載するなど、対応領域を広げています。
もし今後、在宅でのオペレーション業務が普通になっていくと、これまで外で働けなかった方や、キャリアを積まれてきて家庭に入られた方など、多くの人への雇用の間口が広がるんじゃないかと思います。
いまがその一つの契機にもなりえるタイミングだと考えていて、コロナ禍が収まったあとにもそういった流れを積極的に進めていきたいですね。今回の品川区との取り組みもそのきっかけになると思います。
(企画・取材・執筆:阿部 綾奈 編集:伊藤 駿/ノオト)