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他社広報はなぜ一致団結できたのか? 「『五反田バレー』から学ぶ、広報発信で仕掛ける企業間コラボレーションの極意」イベントレポート

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さまざまな企業が参画する「五反田バレー」。2018年7月の設立イベントにはテレビやWEBメディアなど10以上の媒体が集まるなど、設立当初から多くのメディアから注目されています。

様々な業種の企業が名を連ねる五反田バレーですが、その立ち上げを先導したのは、各社の広報たちでした。彼らの共通点は、「五反田のベンチャー企業であること」のみ。一体どのようにして、企業間の垣根を超えた協力関係が生まれていったのでしょうか?

本記事では、広報向けの勉強会を企画する団体・広報寺子屋が、2018年8月30日(木)に開いたイベント「『五反田バレー』から学ぶ、広報発信で仕掛ける企業間コラボレーションの極意」の様子をレポート。五反田バレーの設立から、大幅な露出にいたるまで、広報成功の裏側を紐解いていきます。

会場は、品川区五反田にあるイノベーションスペース「DEJIMA」

<イベント登壇者>

 

田 美智子(でん みちこ)

ファンマーケター。

2018年ヤッホーブルーイング入社。三越での外商やオイシックスでのwebマーケティング・SNS運用、トレタでの広報の経験を生かして現在はファンコミュニティのオーガナイズを手がける。人をつなげるプロモーションを得意としており、PRとコミュニケーションについて考えるコミュニティ「でんこラボ」主宰。趣味は野球観戦と排水口掃除。

https://www.facebook.com/michiko.den

 

古川 芙美(ふるかわ ふみ)

株式会社ココナラ マーケティンググループ 広報・PR リーダー

1982年東京生まれ。大学卒業後、証券会社の法人営業を2年経験。雑誌で読んだ広報の仕事に感銘を受け会社を辞めて、広報の専門学校である「Efap Japon」で2年間広報を学ぶ。

その後、寝具メーカー、ウエディング会社の広報に従事した後、2017年8月より株式会社ココナラの掲げる 『一人ひとりが「自分のストーリー」を生きていく世の中をつくる』というビジョンに共感し、ココナラにジョインした。個人のミッションは「世界の不均衡を均衡にすること」。

 

髙田 綾佳(たかだ あやか)

株式会社よりそう 広報・PRグループ

1988年生まれ、横浜育ち。武蔵野美術大学卒業。印刷会社にてプリンティング職、デザイン事務所にてドキュメントデザイナーとして勤務後、2017年6月に広報として株式会社よりそう(旧:株式会社みんれび)にジョイン。社会問題に強い関心があることから、高齢化・地域格差等多くの問題を背景に抱える葬儀・供養領域に飛び込む。広報×デザインでどこまで情報を分かりやすく伝達できるのか日々模索中。趣味は野球観戦と居酒屋開拓。

「五反田っていいな」という雰囲気が生まれたのがきっかけ

五反田バレー設立の経緯をさかのぼると、最初にあるのは五反田界隈のIT企業が集まって開催したLT(ライトニングトーク)イベントなんです。2015年9月、トレタ五反田移転のタイミングで、当時五反田にあったガイアックスさんから「ちょっとしたLT大会をやりましょう」と提案がありました。

結局7社集まって開催したのですが、そのイベントがかなり盛り上がり、終わった後の懇親会では五反田で愛されている「都々井」のお寿司を食べて……。そういうなかで、「五反田っていいよね」って空気感が生まれました。

そのイベントの模様をWEBサイトで記事にしてもらったところ、Twitter上で「五反田楽しそう」みたいな反応がたくさんあったんです。それで、「地域つながりで会社と会社がワイワイやってるのって、外からは魅力的に見えるんだな」と気づきました。その後もまた、なにかイベントはやろうと思っていたんですが誰も音頭を取らなくて(笑)。結局1回だけでそのイベントは自然消滅しました。

その後は、広報会の立ち上げですね。私はトレタで一人広報をしていたので、他社の広報担当者と広報のノウハウや知識を共有する機会が欲しいと思ったんです。近い場所であれば相談もすぐにできるので、個性的な五反田のベンチャー企業5〜6社の広報さんを集めて五反田バレーの前身になる「五反田ITベンチャー広報会」を作りました。

はじめはただの飲み会だったんですが、freeeさんで「五反田の魅力とは何か」をテーマに、最初のイベントとはまた別に広報同士の軽いLTイベントを開いたら、すごく盛り上がって。2時間の予定だったのが4時間半もしゃべり(笑)、「この熱量ならいける」と感じました。参加者の人柄にも自分に近いものを感じて、これが五反田バレー設立につながったのかなと思います。

株式会社ココナラ 古川さん

古川
そうですね。それに加えて実は、2016年頃から五反田を取り上げたいと新聞やビジネス誌から連絡をもらっていたんです。特に日本経済新聞の記者さんはベンチャーが大好きな熱量のある方で、五反田ベンチャーを盛り上げる記事(※)を書いてくれて。そんな経緯もあって、「あれ、“五反田×ベンチャー”って面白いのかな?」と広報のみんなが気づき始めました。

そこから立て続けに、朝日新聞さんが五反田を取り上げる連載をしたり、共同通信さんが来たり。日経産業新聞さんの記事はかなり話題になりましたね。一般の方は、まさか五反田にベンチャーが集まっているとは思わないから、新鮮な企画だったんだと思います。
そんなふうにメディアがメディアを呼ぶ現象が起きた。ただ、その後は私がトレタを退職して、五反田を離れてしまって。その後のことも聞いていきましょう。

エンジニア採用のため、五反田の魅力を伝えたい

古川
そもそも、五反田の企業って「エンジニアの採用」が慢性的な課題なんです。当時は、同じ採用条件で渋谷と五反田の会社があったら渋谷が選ばれてしまっていた。

これは他社の広報も同じことに悩んでいて、五反田で働く魅力を伝えるのに苦戦していたんです。でも、おいしい飲食店も多いし、暮らしやすくて通勤がしやすい。あとは、空が広い(笑)。

「五反田の魅力をもっと伝えるためには何か箱を作ったほうが絶対にやりやすい」と広報会のFacebookのグループページ内で盛り上がって、「ならいっそ、社団法人をつくっちゃえ!」と。そこから動き始めました。
その時、Facebookグループを見て髙田さんはどう思っていたんですか?

株式会社よりそう 髙田さん(写真・左)

面白そうなことが起きているけど、(よりそうは)新参者だからなぁ、と思っていて。

ですが、よりそうが五反田にあることはもちろん、よりそうという会社自体が十分に知られてないのは以前から課題だと思っていました。だから、もし五反田バレーに主体的に取り組んだら、自分の会社にも地域にもWin-Winになりそう、と。本格的にやると決まったときは、上司に「お願いします、行かせてください」と伝えました。
髙田
古川さんは、ココナラ代表の南(章行)さんや同僚には五反田バレーのことは伝えていたんですか?
古川
はい、ふんわり共有していました。代表に「広報同士で社団法人を作ろうと思います」って言ったら、「やってみれば?」みたいな感じで。
そうなんだ(笑)。

品川区を巻き込んだ社団法人設立イベント、広報視点の裏側

五反田バレーの第1ゴールは設立イベントだったと思いますが、そのスケジュールは?
古川
社団法人設立を決めたのが2018年4月頃だったのですが、当然誰も社団法人を作ったことがなく、かかる時間も方法もわからなくて。

そうしたら、代表理事企業でもあるマツリカのエバンジェリスト・中村(ガクト)さん(当時)が法人設立の担当を「Giveの精神」で引き受けてくれました。
設立方法、知らなかったんだ。
古川
はい、全く(笑)。品川区だと法人登記申請にCD-ROMとフロッピーディスクがいるんですよ。どこでもできなくて、中村さんが急いで漫画喫茶で焼いてきたり……。
フロッピーディスクはちょっとやばいね(笑)。五反田バレーきっかけで、区の人に伝えたほうがいいくらい。

古川
それで期間を見積もったら登記には3カ月以上かかると分かり、設立目標を7月に決めました。

本当は6月のメルカリ上場によるベンチャーの盛り上がりの話題に合わせたかったんですが間に合わず(笑)、そこから設立に携わっている企業のなかで役割分担をしてデザイナーでもあったよりそうの髙田さんが資料関係を引き受けてくれたり、サイトを作るのにココナラの出品者に発注したりしていきました。
今、ちょっと宣伝したでしょ(笑)。
古川
すみません(笑)。あとは品川区との接触です。私たちは広報なので、「記者会見でどういう絵を作るか」をどうしても考えてしまうんですよ。

設立イベントでそれなりのインパクトを与えるためには、品川区長の挨拶、握手、協定書を結んでいる絵が絶対ほしい。それで、品川区にお声掛けしました。もちろんバックアップはしてほしかったのですが。
品川区を巻き込むことができれば、結果的にいろんな取り組みができそう、という話になって。
古川
はい、それは大きかったですね。ちょうど品川区さんも産業支援を推し進めていた。それで、五反田バレーがちょうどその戦略に沿っていたので、担当者さんも熱量をもって応じてくださったんです。

メディアを呼ぶため、「渋谷より有利な」の数字探し

設立準備段階の4月には、メディアアプローチの企画書を作っていますね。これは結構早めの印象ですが、まだ設立することが決まって間もない4月の時点で作れたんですか?
古川
はい、メルカリ上場に合わせるという執念で(笑)。それで企画のために、渋谷と五反田のベンチャーを比較して、五反田が優位な点を探しました。

そうしたら、実は、資金調達額の合計は五反田の方が高いと分かって。そういったビジネスの街として五反田が盛り上がっているのが分かるデータを探して、図を作ったり、資料に落とし込んだりしていきました。

確かに「自分たちがやりたい」だけじゃなくて、数字が出ているとそれを取り上げるメディアも動きやすいですよね。
古川
はい。その企画書をもとに「五反田バレーを立ち上げる予定なんです」と伝えて、メディアアプローチをしました。

それでイベント当日は?
古川
設立イベントには十数社のメディアが来てくださって、テレビはNHKさんとフジテレビさん、ケーブルテレビ品川さんもいらっしゃいました。あとはTHE BRIDGEさんやTechCrunch Japanさん、BUSSINESS INSIDER JAPANさん、アスキーさんなどベンチャーにとって馴染み深いWEBメディアはほぼ来てくれました。
品川区長もおちゃめな方だったので、協定式も盛り上がったよね。
古川
はい、スーツ姿の区長とTシャツ姿の社長たちが並んで記者会見に応じている様子もインパクトがあって良かったです。

「五反田バレー」のため、なぜ広報同士が一致団結できたのか?

それまでも大変だったと思うけど、企業間での役割分担はどんな感じになっていたんでしょうか? 古川さんが全体を見ていたの?

古川
私はリリース作成と配信を主に行い、デザイン関係は髙田さん、メディアアプローチはfreee(当時)の定田(充司)さん、品川区との交渉はSafieの鈴木(章子)さんが担当しました。
全員が自分のできるところややれるところを探す。
古川
そうですね。私は、過去に同業と数社合同でイベントをやろうとしたことがあるのですが、そのときは企画書を作るところまでいけなくて。

今回と何が違ったのかな、と思ったら、最初の「Giveの精神」だと思うんです。「私がやりますね」と言ってくれる方がいたのが大きかったのと、やはりすぐに打ち合わせができる立地だったのが良かったです。
距離が近いのは、何かを進める際には重要かもしれないね。ちなみにツールとかは、最初のFacebookグループのまま?
古川
最初はそこで話し合いをしていたんですが、Facebookグループだとトピックにコメントがつきすぎて、誰が何を進めているのかの進捗が見えづらくなってしまって。それで5月くらいに、連絡はSlackで、設立イベントまでのタスク管理はTrelloでやろうと決めました。
確かに決めることはめっちゃあるよね。
古川
人事系のイベントをやろうとか、コンセプトムービーを作ろうとか、話題によって別のチャンネルを作っています。あと、おいしいごはんの情報を共有するチャンネルも作ったり(笑)。どちらも無料アカウントです。

あとは、データはGoogleドライブ内で一元管理して。ついデータが散らかっちゃっていたんですが、freeeの定田さんが整理が得意で、かなり綺麗にしてくれました。
広報がイベントをやるときって、PR会社さんにお願いして、一緒にやったりすることもあるじゃないですか。

でも今回はPR会社に依頼せず全部自分たちでやっているし、広報同士だからより距離感が近い。思いが同じ人たちとチームを組んでPRをするとどれだけ生産性が上がるのかがよく分かりました。
髙田
「本当は忙しいからやりたくないんだよね」みたいな人がいると、テンションは落ちたり、無理やりやらせている罪悪感が生まれたりして。そういう人がいないのが良かった。
古川
そうですね。それぞれの能力が異なることでスキルは補いつつ、「みんなで盛り上げよう!」というマインドは一緒だったのですごくバランスのよいチームになったと思います。

今後、五反田バレーはどうなるのか?

そして、最後のセッション。五反田バレーは今後どうしていきたいのか、少し聞いていければ。
古川
「五反田」というエリアの魅力を発信するメディアをつくりたいなと思っています。

五反田で働きたい!という人が増えるように。また五反田ですでに働いている人は、五反田のバリューを感じられるように。 また、採用イベントも大々的にやっていきたいですね。

また色んなアイデアは出ていて、例えばオリンピック・パラリンピックで品川区が会場になっている「ビーチバレー」と「五反田バレー」をかけて、他のシリコンバレーみたいなところと、「バレーボール大会」をしたらいいとか……。あ、渋谷のビットバレーさんどうでしょうか?

(一同、笑)

(取材・執筆:鬼頭佳代/ノオト 編集:伊藤 駿/ノオト)

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