五反田計画ITベンチャーと地域の共創メディア

一覧へ戻る

多様性のある社会を五反田から作りたい――コグラフ×明蓬館高等学校が「未来のジブンプロジェクト」にかける想い

  • line

少子高齢化が進むなかで、日本企業の課題となっているのが労働人口減少による人手不足です。その課題を解決するために必要なのが、個性や特性を活かし、誰でも活躍できる就労環境を整えること。ところが、実際はなかなか準備が進んでいないのが現状です。

そんな中、五反田バレーの参画企業であるコグラフ株式会社が、発達障害などのスペシャルニーズを持つ高校生を対象としたインターンシップを開始しました! 「未来のジブンプロジェクト」と名付けられたこの取り組みは、スペシャルニーズを持つ生徒向けの通信制高校、明蓬館(めいほうかん)高等学校との共同プロジェクトです。

開始からおよそ1カ月。「未来のジブンプロジェクト」は、企業や生徒にどのような影響をもたらしたのでしょうか? コグラフと明蓬館高等学校に話を聞きました!

話を聞いた人

森善隆さん
コグラフ株式会社 代表取締役。2000年にプログラマーとしてキャリアをスタート。SEから開発リーダー、製品企画・開発、管理職などを経験する中で、グローバルチームと開発をする楽しみを覚え、その可能性について追求を始める。2010年9月にコグラフ株式会社を設立。サービスを展開し組織を作り、いずれ世界にインパクトを与えられるようなイノベーションを起こすことを目標に、日々邁進を続ける。

横山美貴さん
コグラフ株式会社 Mayai Business Design Office室長。大学在学中に人材系ベンチャーへ就職。その後も複数のベンチャー企業にて、新規事業の立ち上げに携わる。事業開発、マーケティング、セールス、カスタマーサクセス等ビジネスサイドが中心。コグラフではAI×会話の領域で電話コミュニケーションを再発明すべく、オフィス・店舗向けのAI電話番「マヤイ」を育成中。

日野公三さん
​​明蓬館高等学校校長。パソコン通信の経営を経て、2000年東京インターハイスクール、2004年アットマーク国際高等学校創立、理事長・校長に就任。自閉症作家として活躍する東田直樹さんを受入れて以来、発達障害の生徒の学びに大きな使命感を持ち、2009年明蓬館高等学校を創立、校長に就任。2013年SNEC(すねっく、スペシャルニーズ・エデュケーションセンター)を品川・御殿山に設立。今では全国27カ所に開設。

吉田敏明さん
明蓬館高等学校東日本ブロック長。品川・御殿山SNEC/CONECセンター長。発達障害のある生徒を対象とした学習塾の経営、医療機関、福祉施設、教育機関等複数の職域での心理職の経験を経て、発達障害のある生徒たちの高校時代の教育の重要性についての問題意識を持ち、顧問として関わっていた明蓬館高等学校に2019年入職。全国のスペシャルニーズをもつ生徒のために日々プログラム開発等に取り組む。

村上智美さん
明蓬館高等学校東日本ブロックCONEC副センター長。明蓬館中等部サブスクールマスター。公立中学校、放課後児童福祉施設などで勤務後、2021年入職。一人ひとりの生きる力を伸ばすための教育を目指して、CONECのコンテンツ開発・運営と、音楽や生徒同士のコミュニケーション活動を中心に取り組む。

声をかけてすぐに実現 求めることがタイミング良く合致していた

――「未来のジブンプロジェクト」立ち上げの背景を教えてください。

コグラフは全社員の4割ほどが外国籍のメンバーです。国籍、性別、年齢を問わず誰もが働きやすい環境を作るために、以前からダイバーシティの推進に力を入れていました。

そんな中で明蓬館高等学校の方と出会い、スペシャルニーズを持つ高校生が多くいらっしゃることを知りました。何か一緒にできることはないかと考え、「未来のジブンプロジェクト」を企画して当社からお声がけしたのがきっかけです。
コグラフ横山さん
明蓬館 吉田さん
明蓬館高等学校では、スペシャルニーズを持ち、かつITやテクノロジー領域に興味がある生徒を対象とした「CONEC(コネック)」というコースを4月に新設したばかりでした。

プログラミングの技術は授業で教えられますが、それ以外の就労に必要なことは現場じゃないと学べない。そこでインターンシップ先のIT企業を探そうと思っていたところ、コグラフさんから声をかけていただきました。ちょうど良いタイミングで、「ぜひお願いします」と。

――プロジェクトを企画してから、実際にインターンシップを開始するまでの期間は?

やりましょう!となってからトントン拍子に話が進み、8月から準備を始めて9月には生徒さんにお仕事をお任せしていました。1カ月もかからなかったですね。
コグラフ横山さん

――インターンシップ開始までのプロセスを教えてください。

まずはコグラフ社内でどんな業務を生徒さんにお任せするのか検討しました。AIによる電話代行サービス「マヤイ」に携わってもらうことは事前に決めていましたが、具体的な業務内容はスペシャルニーズを持つ生徒さんができること、できないことを知った上で、明蓬館高等学校の方にも相談しながら決定しました。

その後、明蓬館高等学校にコグラフのスタッフが足を運び会社説明会を実施。そこで興味を持ってくれた2名に、入社の書類を提出してもらい実務に入りました。
コグラフ横山さん

マヤイのサービスページ。オフィスや店舗にかかってきた電話をAIが代わりに対応し、チャットで用件を通知 するサービス

在学中に働くイメージを持ってもらいたい

――明蓬館高等学校では、今回のインターンシップをはじめ生徒の就労支援に力を入れていますね。取り組みの背景には、学校側で感じていたどのような課題があったのでしょうか?

明蓬館 吉田さん
通信制高校に通う生徒の中には、進路を決めずに卒業する人が一定数います。個人的な理由で進路を決めないケースもありますが、学校側が就労に向けたサポートをしきれていないことも要因の一つだと考えていました。

学生のうちは働くことのイメージができず、先が見えないことが不安になり、就職活動のハードルが非常に高いのが実情です。だからこそ、学校に通っている間に働くイメージを持ってもらうことで、就職への不安を取り除いて進路決定への後押しができればと思っています。

――今回のインターンシップでも、面接や入社手続きなど、一般的な就職活動のプロセスを経ているかと思います。学校側ではどんなサポートをしたのでしょうか。

明蓬館 吉田さん
会社説明会のときに、コグラフの社員さんと生徒が触れ合える時間を作りました。この時間が就職活動でいうところの「面接」の役割も果たしています。就労先にどんな人が働いているのか、何の業務を行うのかを知ることで不安を払拭します。その後、入社手続きの書類作成も保護者と一緒にサポートしながら提出するまで担任が伴走します。
明蓬館 村上さん
私はインターンシップをしている生徒の担任をしていて、入社までのサポートをしてきました。生徒にとって、入社手続きの書類は初めて見るものですから、「どこに何を書いたらいいのか」と最初は困惑していたようです。今回、書類作成を経験できたことで、卒業後の就職時には自分一人でできるようになっていると思います。

インターン実施1カ月で感じた、生徒の成長

――実際に、コグラフ社で生徒さんはどのような業務を担当していますか?

コグラフのAI電話番「マヤイ」のマーケティング業務の一部をお任せしています。具体的には、当社サービスの情報を各企業のお問い合わせフォームを通して送信する業務です。生徒さんには、送信したい企業のリストと送信するメッセージの原稿を渡しています。
コグラフ横山さん

――生徒さんは、オフィスに出社しているのでしょうか?

いいえ。学校でお仕事をしていて、メールでやり取りをしています。
コグラフ横山さん

インターンシップ業務は、学校の実習室にて行われている

驚いたのが、先日の台風や地震で公共交通機関が止まってしまったとき、生徒さんから「学校に行けず仕事ができないので、不足分は後日カバーしてもいいですか」と事前に相談のメールがきたことです。「『報連相』が、社会人並みにしっかりしている!」と。
コグラフ横山さん
明蓬館 村上さん
この日は、学校にも「仕事ができないことを、コグラフさんへどう伝えたらいいのか」と事前に生徒から問い合わせがあったんですよ。責任感を持って、真剣に取り組んでいるのだと思います。

ほかにも、「コグラフ社はマヤイ以外に、どんなサービスを行っているのか」と視野を広げて会社を知ろうとしたり、「どうすれば今の作業を早く終えられるか」と試行錯誤したり、働くことに前向きになっていると感じます。
インターンを始めたばかりの頃は、仕事に慣れてもらうために目標は決めていませんでした。2週間を過ぎたころから、フォーム送信件数の目標値を決めて取り組んでもらったのですが、難なく目標を達成していて。きっと生徒さんが試行錯誤してくれていたからですね。
コグラフ横山さん

――わずか1カ月でも、生徒さんの成長を感じられているのですね。インターンシップ期間は決まっているのでしょうか。

今のところ期間は決めていないです。コグラフのサービスや社員とのコミュニケーションを通して、働くことの楽しさややりがいを感じてもらい、就職のワンクッションとしての意義を果たせたならば当社としてもうれしい限りです。

生徒さんと一緒に働くことは社内の刺激にもなりますし、個人的にはできれば長くお付き合いできるとありがたいです。今後は別の業務にも携わってほしいと考えています。
コグラフ横山さん

多様性のある社会を、五反田から作りたい

――「未来のジブンプロジェクト」の今後について教えてください。

これは夢物語かもしれませんが、五反田バレー全体でダイバーシティの実現に取り組めないかと考えています。その第一歩として、今回コグラフがこのプロジェクトを始めました。いずれは、地域全体に広まっていくといいなと思っています。
コグラフ森さん
明蓬館 日野さん
発達障害というと、世間的には「マイノリティ」や「支援の対象」としてみなされることが多いですが、私たちはそうは考えていません。スペシャルニーズを持つ、特別な注文主と考えています。ただ特性が生かされる職場がないだけの話なのです。

我々がやるべきことは、その特性が活かせる職種を開拓すること、そしてその先にあるのは、事や業を起こせるインディペンデント・コントラクターをつくっていくこと。今回のプロジェクトを皮切りに、スペシャルニーズを持つ人が活躍できる世界を、五反田から実現したいですね。

(取材・文:水上アユミ/ノオト 編集:伊藤駿/ノオト)

  • line
参考になったらクリック
クリックありがとうございます!

こちらの記事についてご意見、コメントがございましたらお願いします。
コメントは非公開であり、今後の五反田バレーの運営のために参考にさせていただきます。

コメントの送信ありがとうございます!

おすすめの記事