ステイホーム期間中にリモートワークを実施し、現在もリモートワーク を取り入れた出勤スタイルを継続している企業が多くあります。
たとえ社員が出社しなくても、オフィスの賃料は変わらない……。出勤する社員数が少ないなら、いっそのことオフィス面積を小さくする「縮小移転」を検討する経営者もいるのではないでしょうか。とはいえ、いざ実施するのはなかなか難しいですよね。
そんな中、すでに縮小移転を決めて9月に現オフィスを解約する企業があります。国内最大級のおでかけスポット検索サイト『Pathee』やチェーン向けのデジタル店舗販促ツール『STORECAST』を提供する株式会社Patheeです。
早々に縮小移転を決めたPatheeの寺田さん、原嶋さんに移転先の選び方やリモートワークに適した環境づくりについて聞きました。
寺田真介さん
株式会社Pathee代表取締役。2008年情報理工学系研究科博士(情報理工)修了、無線通信技術に関する研究、文部科学省科学技術振興調整費「科学技術連携施策群の効果的・効率的な推進」プログラムの課題「電子タグを利用した測位と安全・安心の確保」に従事。同年日立製作所の研究所に入社し、スマートグリッドなどの研究開発に従事た。電子情報通信学会学術奨励賞などを受賞。2012年株式会社tritrue(現:Pathee)を設立。
原嶋宏明さん
株式会社Patheeマーケティングマネージャー。大学卒業後Webディレクション、プロダクトマネージャーを経験。前職で動画制作プラットフォームCrevoの立ち上げを経験。現職ではマーケティングから組織構築、広報まで幅広い領域を担当。
ビルのワンフロア貸切から、レンタルオフィスへ縮小移転
――2020年9月からレンタルオフィスに縮小移転するそうですね。ちなみに移転前のオフィスのサイズはどのくらいですか?
移転前のいまのオフィスは、80名くらいで使うのにちょうどいいサイズです。従業員30名ほどで使っていたので、全員が出社しても余裕があり、オフィスの3分の1はイベントや打ち合わせで利用できるフリースペースにしていました。
- 寺田さん
――移転を決めた理由は、やはり新型コロナウイルス感染症の影響でしょうか?
移転自体は、コロナ禍の前に決めていました。2020年9月のオフィス更新に合わせて、年明けから移転先を探していたんです。しばらくすると、コロナが流行り始め、3月にはリモートワークを導入。移転先は今後を見据えて決めようという話になり、縮小移転の可能性が出てきました。
- 原嶋さん
ベンチャー企業にとって、どこにお金を費やすのかは大事。従業員が出社しないオフィスの賃料を払うより、その分事業にお金を費やすほうが建設的だと思うんですよね。コロナを契機にリモートワークが定着したので、オフィスを縮小するなら今が良い時期だな、と。縮小移転先は、五反田にあるレンタルオフィス。10名、4名の部屋を2つ借ります。
- 寺田さん
――移転先のサイズはどのように決めたのでしょうか?
最小限のスペースはどれくらいか考えました。それにはまず、会社に何が必要なのかを洗い出しましたね。IT化が進んでいるとはいえ、まだ紙の郵便物が届くので、それらを受け取り、保管する場所が必要。さらに、社員がどれくらいの頻度で出社して、そのときに最低限どんなサイズのスペースがあればいいのか、バランスを見て決めました。
- 寺田さん
レンタルする2部屋のうち、1部屋は紙などを保管する倉庫のような使い方。もう1部屋は、社員が集まれる会議室にしようと考えています。
- 原嶋さん
Patheeの新オフィス。社員が自由に集まって活用することができる。
縮小移転に対する、従業員の反応
――オフィス縮小移転に伴い、従業員はどんな働き方になるのでしょうか?
基本はみんなリモートワークになります。ただPatheeは小売店向けのサービスを提供していて、お客様はほとんどが店舗営業をしている方々。オフラインの場を大切にする店舗と向き合う僕らが、「オンラインのほうが便利だよね」というのは相反している気がして、決断が難しいところもありました。
- 寺田さん
あとベンチャー企業で人数が少ないうちは、集まってどんどん新しいものを生み出し、駆け上がっていくものだと考えていました。顔を合わせてコミュニケーションが取れないと、生産性が低くなるんじゃないかという懸念もありましたね。
- 原嶋さん
対面コミュニケーションを大切にする社風で、そのような感覚を持つ人を採用していたので、リモートワークには反発の声が出ると思いましたが、ほとんどなかった。エンジニアからは、リモートワークのほうが快適という声もあったくらいです。
- 寺田さん
セールス部門は対面コミュニケーションを求めるので、出社するほうがメリットがあるという意見もありましたね。だから、基本はリモートワークだけど、出社もできる「ハイブリッド的な働き方」ができるよう、レンタルオフィスを2部屋借りることに決めたんです。
- 原嶋さん
リモートワークによる働き方の変化
――リモートワーク継続にあたり、変更したことはありますか?
縮小移転を決める前から実施していますが、コロナをきっかけにミーティングの仕組みを変更し、今後も継続していく予定です。これまではチームごとに打ち合わせをしていましたが、加えて他のチームと共同ミーティングを増やしました。
- 原嶋さん
リモートワークの一番の課題は、雑談がなくなること。出社していれば、他のチームメンバーとの会話で、新しいアイデアが生まれることもありましたが、リモートだとそれがなくなっちゃうので。
- 寺田さん
あとは、些細なことでもチャットツールで言う。社員同士の作業が把握しづらくなっている分、報連相はコロナ前よりもマメにやって業務の見える化を図っています。
- 原嶋さん
――コミュニケーションやファイル共有などで、どんなオンラインツールを使っていますか?
ミーティングはZoom、日々のコミュニケーションはSlack、タスク管理はTrelloを使っています。SlackとTrelloは以前から使っていて、Zoomはリモートワークになってから新しく導入しました。
ファイル共有はクラウドを活用しています。リモートワーク以前から、資料はGoogleドキュメントで作成・管理をしていて、取引先に持っていくときだけ紙に印刷していました。
リモートワークの弊害といわれている「ハンコ業務」もクラウドサインが普及してきて、そういう意味ではリモートワークに切り替えやすい環境だったのかもしれません。
- 原嶋さん
――リモートワークの導入で、社員の働き方にはどんな変化がありましたか?
アルバイトの働き方は変わりましたね。特に主婦の方は、家事との両立でこれまで4時間しか働けなかったのが、移動時間がなくなり1時間長く働けるようになった人もいます。
もちろん会社側が呼びかけたわけではなく、本人が希望した場合のみ勤務時間を増やしています。会社としては長く働いてくれる分にはありがたいので、お互いにとって良い結果になっています。
- 原嶋さん
正社員でも「家族で昼食を食べるので、一旦席を外します」という人がいます。一時的に業務を離れて用事が済んだら戻って働く、といったように時間を有効活用できるのもリモートワークの利点ですね。
- 原嶋さん
縮小移転での社内ルールづくりはこれから
――オフィスを縮小移転するのに、それほど苦労はなかったように聞こえます。
比較的新しい会社で、ITツールも積極的に使っていたので、縮小移転のハードルは低かったかもしれませんね。
- 原嶋さん
縮小移転よりも、スムーズに運用するために社内ルールを整備することのほうが大変かもしれません。縮小移転したことで、何ができて、何ができないのか顕在化してきたら、ルールづくりを始めようと思います。
- 寺田さん
――なるほど。社内のルールづくりは、これから取り掛かるのですね。
個人のルールはもう決めているんですけどね。僕はみんなと仕事をすることがないので、1日1回は社員のミーティングにふわっと参加するようにしています。
- 寺田さん
社員のミーティングスケジュールは共有されているので、時間があるときに急に参加します。特に発言はせず、存在感も消して。そうすることでリモートでは把握しづらい社員の動きや、チームの空気を感じ取るようにしています。
- 寺田さん
寺田さんはフレンドリーで社員との距離が近いので、急に会議に参加しても威圧感がないというか。自然にミーティングに溶け込んで、しばらく経ってから「あっ、いたの?」となる時もあります(笑)。
- 原嶋さん
――最後に、縮小移転先を五反田で選んだのはなぜでしょうか?
社員の中村岳人さんが、五反田バレーの中心メンバーとして活動していて、弊社としても五反田を応援していきたいと思っていたことと、あとは数年五反田にオフィスをかまえていて、立地がよく利便性が高いという実感があったので、五反田を選びました。
- 寺田さん
――素敵なお話をありがとうございました!
オフィス縮小移転の流れは、今後加速しそうです。五反田には、レンタルオフィスやコワーキングスペースが多数あり、Patheeさんのようにそれらを活用した「新しいオフィスのあり方」が定着する日も近いかもしれません。
今回の事例を参考に、あらためてオフィスやリモートワークのについて考えてみましょう。
(文:水上アユミ/ノオト 編集:杉山大祐/ノオト)