2022年6月15日、西大井創業支援センターにて、イベント「フリーランス→法人化→組織化を実現した品川経済新聞編集長・宮脇社長に聞く、プレイヤーから起業家になった経緯と方法」が開催されました。
ゲストスピーカーとして登壇したのは、有限会社ノオト代表取締役で、Webメディア「品川経済新聞」編集長を務める宮脇淳さん。フリーランスとして活動後、法人化・組織化を果した宮脇さんは、現在フリーランスとして活動しながら法人化を検討している方に向けてどのようなアドバイスを送ったのでしょうか。
イベントは、西大井創業支援センター・インキュベーションマネージャーの朝比奈信弘さんを聞き手として、宮脇さんがフリーランスから法人化・組織化に至ったプロセスや、人事採用、企業ブランディング、経営者として大切にしているマインドセットなどをトークセッション形式で解説。終了後は、参加者との質疑応答の時間が設けられました。その模様をご紹介します。
ゲストスピーカー 宮脇淳さん(有限会社ノオト代表取締役)
雑誌「WIRED 日本版」編集者を経て、1999年に25歳でライター&編集者として独立。フリーランス活動を5年半続けた後、有限会社ノオトを設立した。現在は大手企業を中心としたオウンドメディアのコンテンツ企画・制作を担当。2007年に地域メディア「品川経済新聞」を創刊し、編集長に就任した。現在は本業の傍ら、宣伝会議「編集ライター養成講座」講師も務め、全国各地で「#ライター交流会」を実施している。
法人化で得たブランド力の大きさを実感
でも、半年後に会社が倒産してしまい、別の編集部に移ったらそこも5カ月で潰れてしまったんです。新卒1年目で2社なくなる得難い体験を経てしまいまして、これはもうフリーランスになるしかないと、流されるまま独立してしまいました。
そこから5年半くらいフリーで編集や執筆の仕事をして、有限会社ノオトを立ち上げたのは31歳でした。なぜ法人を作ったのかとよく聞かれるのですが、これも流れでしょうかね。とにかく日々必死に食らいつきながらライター仕事をしていたのですが、1人で売り上げを伸ばし続けるのには限界があり、だんだん辛くなってきて。原稿を書き終えて疲れ切った夜中にふと「会社作ろう」と決めました。
▲有限会社ノオト代表取締役 宮脇淳さん
良くなかった点は特にありませんが、管理業務はとにかく増えました。お金のことだけでなく、スタッフの教育もありますし、社員からも日々さまざまな相談を受けるので、自分自身が最前線のプレイヤーとして動ける時間は明らかに減りました。そういう意味で今は事実上、ライターは引退しているんですよ。たまに自ら書くことはありますが、コンテンツ制作の仕事は基本的に編集に回って、社員やフリーランスのライターさんに執筆をお願いすることが多いですね。
採用した限りは、会社が人を育てる意識を
▲西大井創業支援センター・インキュベーションマネージャー 朝比奈信弘さん
ただし、一人で仕事ができるようになった社員は、独立したり別の会社に転職したりしてしまうこともあります。「せっかく育ってきてこれからなのに」という気持ちも正直ありますが、当時はまだそれだけの魅力的な会社にできていなかったということですから、しょうがないかなと。それに、たとえ退職しても近しい業界にいれば、その後も関係は続きますから。
それに、外に出た社員の多くが活躍してくれたことで、「あの人はノオト出身」という風に業界での知名度が広がりました。それが繰り返されたことで「ノオトに入りたい」という人が増えてきたので、採用がとても楽になった気がしています。採用って、クライアントが「この会社に依頼したい」と思うのと同じで、「この会社に入りたい」と思ってもらえるような価値を溜めていくしかないんですよ。応募してくれた方には「よくうちの会社を知ってくれていましたね」と感謝しながら選考しています。世間的には無名ですからね。
資金調達はどのようなビジネスか次第
ただ、弊社のような編集仕事なら、資本は人とパソコンだけなので、資金調達はあまり必要ありません。ノオトは社員全員にMacBook Airを支給し、あとはGoogleやMicrosoft、Slack、チャットワークなどの有料アカウントくらいですので、そこまで借入の必要がありません。
初めての融資は国民生活金融公庫(現・日本背作金融公庫)で、借入金は1,000万円です。そのあとは、品川区の「融資あっ旋制度」を使って借り入れ、1,250万円、1,500万円をそれぞれ3年ほどで返済しました。現在の借り入れはコロナ禍直後の3回目で、上限額2,000万円の融資をいただいています。品川区の制度を活用すれば3年間は無利子ですので、これはとても助かっています。
会社を成長させるために行う資金調達もあれば、会社を安定させるための借り入れもある。どっちも大事ですが、結局のところ業績が伸びて信用が積み上がれば、堂々とお金を借りられます。借りられるうちにしっかり借りておくのも、経営者の大事な仕事ですね。
社員を大事にすることが自社ブランディングの第一歩
どの会社にも当てはまると思うのですが、退職した元社員に知らないところで悪口を言われてしまうのって、自社のブランド棄損になりますよね。良くない会社って、どうしても業界内で悪い噂が広がりますから、そもそも社員の待遇をちゃんとしておくのはとても大事だと考えています。徹夜仕事は絶対にさせたくないし、業務過多なら案件の量も調整もします。給料はきちんと払いますし、利益が出たら期はボーナスもしっかり出します。人件費を削ったほうが会社の利益はもちろん増えるのですが、失うものも大きいんじゃないでしょうか。社員にお金をちゃんと渡すって、すごく大切なことなんです。
社員を大事にするのは、自社ブランディングの第一歩です。ここ数年は特にそれを意識して、待遇面なども頑張って改善していきました。あと、フリーランスのライターさんなど外部協力者にも良い条件で仕事を依頼するのはとても大事だと考えています。予算が限られている場合もあって常に良いギャラを払えるわけではありませんが、たとえばクライアントからまだ入金がなくても先にギャラを振り込むなど、そういった配慮をするようにしています。
正直であることは武器になる
トークセッション終了後、質疑応答タイムへ。起業を目指す参加者たちから、フリーランス→法人成りに関する質問などが、次々と寄せられました。
でも、会社の経営って最初からそういった知識がなくても、少しずつ痛い目に遭いながら学ぶことで本当に身に染みることが少なくありません。知識や情報に振り回されず、きちんと自分の考え方ややりたいことに向き合うようになってからのほうが、専門家の知見をより生かせるのではないかなと思います。
ただ、コロナ禍で世の中どんどんオンライン化が進んでいるのに、18年前に契約した古い税理士事務所ということもあって、経理作業はずっと紙ベースだったんです。そこで、担当者を説得して、1年前にfreeeを導入しました。その税理士事務所では初の試みだったらしく、新しいシステムに慣れてもらうための学習費用を追加料金として支払いました。その結果、業績がいつでもオンラインで可視化できるようになり、インボイス制度にもスムーズに対応できる見通しです。いまから起業するなら、絶対にクラウド会計ソフトは最初から導入したほうがいいですね。途中から切り替えるのはとにかくすごく大変でした。
会社を経営していると、余計なコストをかけたくないとか、この部分は削減できるといった話はよくあります。ただ、それによって本業に集中できなかったり、疎かになったりするのは本末転倒です。仕事しやすい環境づくりに役立つサービスを見つけて、お試しでもいいから導入してみて、いい感じに回るなら積極的に取り入れる姿勢というかセンスみたいなものが、これからの起業家や経営者には大事じゃないかなと考えています。
文=武藤 駿仁/編集=ノオト