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コロナ禍で苦境に立つ商店街を守りたい 「しながわ商店街応援プロジェクト」に込める思い

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緊急事態宣言が解除されたものの、いまだ収束の見通しが立たない新型コロナウイルス感染症の流行。東京都は、3月に都民へ外出自粛要請を行いました。街から人影がなくなり、商店街にある飲食業やサービス業の個店は苦しい状況に立たされています。

再び商店街の活気を取り戻したい。そんな思いから、五反田バレーは品川区、品川区商店街連合会と連携し、2020年5月に「しながわ商店街応援プロジェクト」を立ち上げました。当プロジェクトの目的は、対面接客が難しい状況下でITの力などを使ってコロナ禍を乗り越えるための支援を行うこと。プロジェクトを立ち上げた経緯や取り組みについて、3団体の担当者が振り返ります。

参加者:
品川区商業・ものづくり課 産業活性化担当係長 小川和朗さん
品川区商業・ものづくり課 商店街支援係長 明石賢郎さん
品川区商店街連合会 事務局 榎田陽子さん
五反田バレー 代表理事 中村岳人さん
五反田バレー 理事企業 柳澤芙美さん

品川区、品川区商店街連合会、五反田バレーの各担当者と、五反田計画編集部でオンラインミーティングを実施。五反田計画編集部がファシリテーターとなり、3団体に話を聞いていきます。

「今すぐできることを」コロナ禍の商店街を守るプロジェクト

――「しながわ商店街応援プロジェクト」を立ち上げた経緯を教えてください。

中村:実はコロナ禍になる前から、五反田バレーと品川区の間で、五反田バレー企業が提供するITツールで商店街支援ができないかと構想していました。提供できるサービスを取りまとめて、商店街の方々へ周知するためのイベントを企画していた矢先に、新型コロナウイルス感染症が話題になり始めたんです。

小川:イベントは6月に開催予定でしたが、日に日に被害が拡大していく状況を鑑みると、年内には開催できないと判断しました。それと同時に、今できることをやらないと商店街がもたないのでは、という話になりました。

中村:まずは今すぐできることをやって商店街を維持しつつ、結果的にIT化もできればいいよね、と。そこで「商店街をコロナ禍から守ること」を重視した立て付けに変更し、「しながわ商店街応援プロジェクト」として実施することにしました。

――新型コロナウイルス感染症拡大後の、商店街の実情はいかがでしょうか。

榎田:東京都の外出自粛要請が出てから、飲食店はテイクアウトに切り替える流れがありました。しかし、これまでテイクアウトを実施していなかった店舗はノウハウがなく、当初は思うように営業できていない所も多くありました。最近では、この状況が長引くことを見据えて店舗営業に加えてオンライン販売を始める飲食店も出てきました。ただ、自力でIT化を進められる店舗は少なく「生存のためにはIT化しないとまずい」と危機意識を感じながらも、実店舗のテイクアウトをこなすことで精一杯になり、オンライン販売などのIT化のノウハウを調べる時間がないのが実情です。

明石:住民の皆さんの中には、身近なイベントを主催しているのは区だと思っている方もいますが、実は商店街が担っているものも多くあります。その商店街の力が弱くなると、地域の賑わいや活力も失われていきます。世の中的にはIT化が進んでいますが、商店街の個店はまだまだ取り残されているので、このプロジェクトを通じて地域活性化とIT化を加速できればいいなと考えています。

商店街を対象に支援金を支給

継続的な商店街支援を行う当プロジェクト。今回は、第一弾として「支援金」「「商店街店舗への販促支援」「デリバリー支援」の3つの取り組みを実施します。

――まずは「支援金」について教えてください。5月13日発表のプレスリリース に、「商店街の感染症拡大防止の対策費として、商店街の会員数および活動状況に応じ、支援金を支給します」と記されていました。どういった立場の方が対象なのでしょうか。

明石:この支援金は、商店街に対して支給するものです。商店街は主に加盟店から集金する会費で運営されています。しかしながら、休業で個店の売り上げが激減し、会費を集金するのが難しい現状があります。商店街全体でコロナ対策をしたくても、原資がないのでできない。そこで区が対策支援金を支給し、たとえばまとめて消毒液を買ってお店に配布したり、コロナ収束後に落ち込んだ景気回復のためにイベントを開催したり、商店街の実情にあわせて使ってほしいと考えました。

――東京23区の中で、商店街に感染予防対策の支援金を支給する例は珍しいと思います。先駆けて品川区が行うに至ったきっかけはありますか。

明石:商店街は、品川区の大切な生活インフラであり、観光資源でもあります。今回のコロナ禍で商店街が潰れてしまう事態を避けるために、一刻も早く対応したくて決断しました。また、商店街から多くの要望があったことにも背中を押されました。

オンライン販売を促進するノウハウの提供

――次に「商店街店舗への販促支援」について。ブログサービスのnoteで、インターネット販売(EC)のノウハウを公開しましたね。この取り組みは、五反田バレー主導で実施しているのでしょうか。

中村:そうです。先日公開したnoteは、小売店向けにECの話を書きました。前提として、街なかに人が出ないとサービスを提供できない店舗があります。そういった店舗でも、オンライン販売のスキルを身につければサービスを提供できることを伝えたかったんです。

noteに投稿されたコンテンツ。小売店向けに、オンラインでサービス提供するためのノウハウが書かれている

――最初にECのノウハウを公開したのは、理由があるのでしょうか。

中村:僕が所属している「Pathee」が小売店支援をしている会社で、ECのノウハウを持っているので、まずは自社で発信できることを書きました。ただ、自社だけでは情報に偏りがあるので、五反田バレーの他の企業さんにもご協力いただく予定です。例えば、オンラインでスキルの販売を行なっているココナラの柳澤さんに、サービス業×ECの情報発信をしてもらうとか。

柳澤:はい、よろこんで協力します。ウィズコロナの状況が続くと予想される中で、対面での営業が難しいため、オンライン化を進める動きが出てきています。例えば、小売店やサービス業の方が実際にココナラを使ってPR用の動画を作ったり、HP制作を依頼したりするなど。内容によっては、5000円〜1万円くらいで動画を作れるので、金銭的に厳しい面があるかもしれませんが、意外と手軽にオンライン化を進められることを情報発信できればいいな、と。

――今後は小売業、サービス業、飲食業などさまざまな業界に向けたコンテンツを発信していくのですね。

中村:どうオンライン化するのか、それをどう運用していくのかの二段階に分けて、noteで情報発信をしていく予定です。

飲食店のテイクアウト需要を高める「デリバリー支援」

「デリバリー支援」は、大きく分けて2つの取り組みがあります。1つは、テイクアウトを実施する品川区内の店舗を集めた「しながわTAKEOUT MAP」の公開。もう1つは、「しながわデリバリー」といって、品川区職員有志がしながわTAKEOUT MAP掲載店舗の中から昼食にお弁当を注文して苦境に立たされている飲食店を少しでも応援しようという取り組みです。

――「しながわTAKEOUT MAP」は、どのように作られたのでしょうか。

榎田:テイクアウトの情報は各店舗のSNSで発信されていますが、家の近くでどこがテイクアウトをやっているのか一覧で見られるマップがあるといいなと思いました。ただ自分で作るノウハウがなかったので、品川区で活躍されている中小企業診断士さんに話したところ意気投合して、相談した2日後にリリースできました。

――2日後?! ものすごいスピード感。

榎田:まずはリリースすることが優先だったので、最初は5店舗しか掲載されていませんでした。今は190店舗ほどに増えています。お店からも一般のお客さんからもテイクアウト情報を投稿できるようになっていて、1日5件くらいずつ増えています。現在地に近いお店を地図から探せるようにしたり、気になる金額も明記できるようにしたり、使いやすさにこだわって作りました。

「しながわTAKEOUT MAP」は、Webブラウザから閲覧できる。アプリのように使い心地がいい

しながわTAKEOUT MAP
https://shinagawabento.glideapp.io/

――続いて「しながわデリバリー」について。品川区の職員の方々は、コロナ禍になる前はテイクアウト利用が少なかったのでしょうか。

明石:そうですね。食堂や外食、大手のランチ業者などを利用している人が多かったです。5月14日から商店街の飲食店のテイクアウトを注文し、商店街連合会のスタッフがデリバリーするという形で始め、初日は53件の利用がありました。現在は区役所全体ではなく、一部の部署で実験的に行なっているので、今後は対象を広げてもっと件数を増やしていきたいです。

――テイクアウトを利用した職員の反響はいかがですか。

明石:「料理がとてもおいしい」「行ったことがないお店の料理を食べられるのはうれしい」などの声がありました。商店街を元気づけたいという思いを持った職員がたくさんいるので、少しでも力になれるとうれしいです。

うれしそうにテイクアウトのお弁当を持つ、品川区地域振興部長の久保田さん

コロナ収束後は、さらに住みやすく便利な街に

――最後に「しながわ商店街応援プロジェクト」へ期待することはなんでしょうか。3団体それぞれの視点からお伺いしたいです。

中村:コロナ禍をきっかけに、この状況を乗り越えるため、今あることをより良くして経済活動をしようという機運が高まったと思います。収束する頃には、前よりももっと住みやすくて便利な街になっているはず。そうなることを信じて、五反田バレーは品川区や商店街連合会と一緒になってこのプロジェクトに取り組んでいきたいです。

明石:外出自粛の影響で銀座や渋谷などの店舗が次々と休業になり、主な買い物エリアが近所の商店街になりました。そうした生活インフラが家の近くにあることの重要さを、このコロナ禍をきっかけにあらためて気づいたのではないでしょうか。今後は、商店街の維持・発展を目指して、デジタル化などできることを3団体で実現させたいです。

小川:品川区の産業における強みの一つに商店街があって、さらに最近ではIT企業が集まった五反田バレーの強みも加わった。その両者を組み合わせる形でプロジェクトを始動できたので、今後はこれを大きくしていきたいです。こんなご時世ですが、ピンチをチャンスに変えて、五反田バレーの企業はサービスを普及して大きくなって、商店街もIT化で元気になるWin – Winの関係性を、今回のプロジェクトを契機に続けていきたいです。コロナが収束したときには、商店街を盛り上げるイベントも計画しているので、ご期待ください。

 

(文:水上アユミ/ノオト 編集:杉山大祐/ノオト)

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