
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令により、リモートワークで作業している人は多いと思います。自宅で仕事をするにあたり、オフィスの作業環境との違いやweb会議に戸惑っている人もいるのではないでしょうか。
そこで気になるのは「リモートで会議が行えるVRサービスを提供する企業が、今回の事態をどのように感じているか」です。五反田バレー参加企業のSynamonは、緊急事態宣言発令前の3月30日より、全社員がリモートワークを行っているとのこと。リモートワークを実施して気づいたことや、web会議・VR会議について、3人の社員の方に座談会形式で語っていただきました。
○座談会参加メンバーのプロフィール
伊藤 翔さん
新卒でエンタメ系企業に入社し、動画配信サービスのIPコンテンツの獲得やIPタイアップ企画を担当。その後、日本オラクルでSaaSのインサイドセールスからフィールドセールスを経験。「死ぬまでに仮想現実の世界へ行きたい」と思い、2019年よりSynamonにジョインし事業開発担当としてビジネス側全般を担当。
八木 順也さん
横浜国立大学経営学部卒業。東急エージェンシーにて大手コンビニエンスストアの営業を担当し、テレビCMやラジオCM、新聞などのメディア全般の広告企画、進行に従事。プルデンシャル生命保険では、法人個人のお客様400名の人生に寄り添う。たまたま読んだ本をきっかけにVRに限りない可能性を感じ2019年にSynamonへ。主力サービス「NEUTRANS BIZ」のセールス担当。
熊谷 春香さん
桜美林大学芸術文化学群卒業。メイドの女の子がVR開発を学ぶコミュニティの運営に関わる中でVRの魅力を感じ、2017年にSynamonにジョイン。ビジネス側全般のサポート業務を経て、1人目のカスタマーサクセス専任メンバーとしてカスタマーサクセスの立ち上げを担当。現在は、主力サービスである「NEUTRANS BIZ」の顧客サポートやサクセス支援を行っている。
リモートワークで気づいたオフィスの存在意義
——まず貴社のリモートワークの状況からお聞きします。3月30日から全社的にリモートワークを始めたと発表があったのですが、コロナ禍以前はリモートワークを行っていたのでしょうか。
当社はもともとリモートワークをあまり推奨しておらず、基本的にはオフィスに出社し、顔を突き合わせながらみんなでスピード感を求めてビジネスや開発をやっていこうねという姿勢でした。2月頃から感染が広がりそうという意見が出てきたので、実際にリモートワークができるのか一部社員が実験的に行い、環境を整えるなどをしておりました。全社的には3月30日よりリモートワークを開始した形になります。
(注:2020年6月より新型コロナウイルス感染症への対策も実施しつつ、出社とリモートワークを組み合わせて働けるような新しい仕組み作りに取り組んでいるとのこと)
- 伊藤さん
——その際には、会議もweb会議のような形で行っていたのでしょうか。
web会議は行っていました。また、当社の製品であるVRコラボレーションシステム「NEUTRANS BIZ」をあらためてユーザー視点で使用したい思いもあり、どちらも意識的に使っていましたね。
- 熊谷さん
——取材時現在では、リモートワークを本格的に始めてから1カ月ほど経っています。実際にリモートワークを行っていて気づいた点はありますか。
オフィスがあることや対面することによって生まれる雑談などの不確実なコミュニケーションが、リモートワークでは起こりにくいなと思ったのと、心理的な安全性を確保するにはそれらが重要なことに気づきました。
- 伊藤さん
——なぜオンラインでは雑談が生まれにくいのでしょうか。web会議では擬似的とはいえ一箇所に集まっていますが、リアルな場とどう違うのでしょうか。
要素としては2つあるかなと思っています。1つ目は相手の状況を把握し難いこと。そしてもう1つは、偶発的なタイミングを作りにくいというか、雑談は意図して作るものではないと思うので、自然と雑談が生まれるタイミングを作りにくいのかなと。この2つは相互関係があるとも思います。
- 伊藤さん
——たしかに自然発生的に出てくる雑談と、意識的に同じ時間に集まるweb会議では相性が悪いような気がしますね。八木さんはリモートワークについて、何か気づいた点はありますか。
オフィスのありがたさでしょうか。私の状況をお伝えすると、夫婦と4歳と2歳の子どもの4人家族で、妻もリモートワークをしています。共働きなので、今までは子どもを保育園に預けていましたが、現在は全員が家にいる状況になって、正直日中はほとんど仕事ができないですね。
web会議を行う場合には、妻に時間を確保してもらい、子どもの対応をしてもらっています。お互いの時間を確保するために、交代で子どもの世話をしていますね。
集中的に作業できるのは子どもが寝た後。22〜23時頃からスタートして、朝方までかかることもあります。小さなお子さんがいる家庭では、どこも同じ状況なのではないでしょうか。
- 八木さん
——そうしたご家庭で作業時間を確保することは難しそうですね。熊谷さんはリモートワークで気づいたことはありますか。
出社のための移動がなくなったことがありがたいなと思いました。外出前、化粧などの身じたくにかかっていた時間を睡眠時間に当てることができたり、起きてすぐ作業を始められたりするので。一方で、オンとオフの切り替えが難しいとも思いました。時間が来たらお風呂に入るなど、オフにする意識を持たないといつまでも仕事をしてしまうなと。仕事とプライベートの境目がなくなってしまう印象を持ちました。
- 熊谷さん
——なるほどですね。ちなみに伊藤さん、八木さんはオンとオフの切り替えについて実感はありますか? また、それについて工夫していることはありますか?
オンとオフの切り替えは、たしかになくなったかな。ただ個人的には、オン・オフはなくてもいいやと思っています。自分の場合は、現在のライフスタイルになじんでいる気がしますね。
でも、深夜にパソコンに向かったり会議が続いたりして常に働いていると、妻に負担がかかるので改善したいなとも思っています。考えているのは、週1回ぐらいでどちらかがホテルに泊まりに行くという方法。なるべく誰とも会わないようにしてホテルに泊まり、お互いに隔離された状態を作り出すということは考えています。
- 伊藤さん
僕の場合は、子どもに強制的にオフにさせられてしまうので(笑)。ただし、仕事の優先度を以前より明確につけるようにしました。オフィスにいた時は今と比べて時間があったので自分の気分に合わせて業務の順番を決めていましたが、現在は本当に時間がないので、緊急性の高い業務から行っている状態です。
- 八木さん
web会議とVR会議の違い
——続いて、web会議やVR会議について気づいた点を教えていただけますか。
VR空間は偶発的な意見が出しやすい場だと感じています。ZOOMなどのweb会議の場合、「○○さんはどうですか?」など特定の相手に話を振らないと意見が出てこない印象ですが、VRの場合、体の向きなどで誰に話しているかを明確にアピールできたり、相手の様子が伝わってきたりするので、コミュニケーションの質としては高いなと思いました。
- 熊谷さん
——web会議とVRでの会議はどこが異なるのでしょうか。
VRだと雑談が生まれやすいのかなと。web会議の場合、議論が終わるとその場で失礼しますと終わってしまうのですが、社内でVR会議を行っていると、「そういえば、○○の話をしたかった」など雑談が続く印象があって。「体験の共有」と言えばいいんでしょうかね?
- 八木さん
VR空間のほうが情報量が多いというのはあると思います。手の動きや身振り、あとは空間に何か書くとかができて、そういうところから発想が生まれることがあり、話が広がることが結構あって。インプットされる情報量が多いので、さまざまな方向に話がつながっていくのだと思います。web会議の場合、参加者は皆同じ距離感で話していると思いますが、VRの場合、例えば、遠くにいる人の声が小さく聞こえたり、右隣にいる人の声が右から聞こえたり、距離や位置関係が声に反映されるので、空間自体の設計ができることが大きな違いかと思います。それによって、参加者ごとにグループが生まれて話しかけやすい状態になるのだと思います。
- 伊藤さん
——まさに、今もZOOMで座談会を行っていますが、リアルと違って発言がかぶると聞こえづらいので、web会議はあまり座談会に向いていないのかもしれませんね。他にweb会議とVRの違いはありますか。
先ほどはVRがweb会議より優れている点を挙げましたが、逆に課題としては、表情がわからないこと。ZOOMの場合、カメラをオンにしていれば表情がわかりますが、VRの場合はアバターが画面上に表示されるので、本人の顔が見えないことがデメリットのひとつですね。しかし、表情がわかったほうがいい場面とそれ以外で使い分ければいいのかなとも。
実際、当社のコミュニケーションツールは、文字ベースのSlack、映像ベースのZOOM、VRのNEUTRANS BIZ、音声ベースのdiscordの4つを使い分けています。なので、VRがこれらの上位互換ではなく、共存しているものという印象ですね。
- 伊藤さん
——また、常に誰かを見たり見られていたりする状態で疲れるという声もありますよね。皆さんはどうですか。
意識を集中し続けなければならないのが疲れるのかなと思っていて、従来のオフラインの会議では、会議室に行くこと自体がスイッチになっていたというか。ボタンひとつで参加できて、常に誰が発言するか聞き漏らさないように気を張るのはものすごく疲れてしまうなと。
- 熊谷さん
慣れてはきているものの、疲れますね。従来の会議では360度見渡すかぎり会議だったのが、現在は画面のみが会議で周りがプライベートの空間であることも影響しているのかもしれませんね。
- 伊藤さん
——VR空間の場合は、360度会議をする空間なので集中しやすいとは思いますが、一方で疲労の点ではどうでしょうか。慣れたら軽減されるのか、そのあたりも含めてお聞きしたいです。
さまざまなお客様から意見をいただくのですが、かなり個人差が激しいところでして。最初から何時間でも使える人もいますし、数分でも無理という方もいますし、使っているうちに慣れる人もいれば、一向に慣れないお客様も中にはいる状態です。今までの経験やお客様の声を鑑みると、1時間程度に抑えるのが良いと思いますね。
- 熊谷さん
NEUTRANS BIZの特徴とVRの今後
NEUTRANS BIZのトレーラー映像(Synamon公式Youtubeチャンネルより)
——VR会議についての話が出てきたところで、貴社のサービスである「NEUTRANS BIZ」についても伺いたいです。最近ではVR関連のサービスも増えてきましたが、NEUTRANS BIZの特徴はどこにあるのでしょうか。
ビジネス向けのVRサービスがあまりないのがまず強みですし、あとは複数人が空間を共有できるところ、さらにPDFや3Dデータを簡単に共有できる点でしょうか。また地味ですが、当社製品の強みに「使いやすさ」が挙げられます。
実は最近も導入を検討されているお客様から問い合わせがあり、その方は類似サービスを体験された後にNEUTRANS BIZを体験したいとのことでした。実際に案内したところ、すごく使いやすく、酔わない点に感動されていました。VRに詳しい方こそ使いやすさを実感されるのではないでしょうか。
- 八木さん
——なるほどですね。あとは使いやすさの話に戻して、UIはどのような工夫が施されているのでしょうか。
大きな特徴としては、シンプルな操作性でしょうか。決定ボタンと何かをつかむボタンの2つで、基本的な操作はできます。PDFを開く、3Dモデルを呼び出す、360度画面の表示を変更するなどビジネス向けの機能は多く搭載しているのですが、操作はシンプルに行うことができます。初心者の方でもこの2つの操作を覚えるだけで8割くらいの機能は使えます。
- 伊藤さん
手首のあたりにタブレット型のメニューがあって、そこを見ればさまざまな機能を使えます。操作の感覚としてはスマホの操作に似ており、使いたい機能のアプリをクリックすれば使えます。なので、初めて使う人も簡単に操作を覚えることができます。
- 熊谷さん
——最後に、今後VRとの相性が良さそうな業界やビジネスシーンについて教えてください。
一番のメリットは離れていてもVR空間で集まれる点なので、店舗研修などのトレーニングは相性が良いのではないでしょうか。家にいながらトレーニングできたり、VR空間に工場を再現してトレーニングを行ったりVRの特性を生かせると思います。あとは学校の授業にも取り入れられそうですね。例えば、VR空間内を戦国時代風に再現するだけで、歴史の授業を面白くできそうです。
- 八木さん
VRはインターネットと同様、使いようによって価値が発揮できるベースの技術だと思うので基本的にはどの業界、ビジネスシーンにも生かせると思います。ただ、もともと密な空間を必要とするようなイベントや窓口などコミュニケーションがあってこその場との親和性が高いのではないでしょうか。
- 熊谷さん
短期的には、展示会などのイベントや研修での利用の問い合わせが増えています。それこそオンラインイベントが見直されている今、VRで何かできないかは僕らも考えているところです。長期的には「ホームワールド」という考え方がありまして、その実現ができないか考えています。現在、「ホームページ」と呼ばれる企業の情報を共有するサイトがありますが、今後XRが広まっていった際、企業の世界観を共有・体験できる「ホームワールド」を持つような時代が来るのかなと予想しています。そのようなホームワールドを提供できればなと思っています。
- 伊藤さん
(取材・執筆:杉山大祐/ノオト 編集:水上アユミ/ノオト)