2020年のリモートワークの需要増加に伴い、旅行しながら仕事をする「ワーケーション」という働き方に注目が集まっています。
自宅やオフィスといった場所に制限されない働き方を実践するだけでなく、コロナ禍で経済的な打撃を受けている観光地や地方自治体への利益を生み出せることも大きなメリットの1つ。
地方自治体がワーケーションの需要取り込みのプランを設けるなど、ワーケーションのために動く人がいる一方で、働く場所を自由に選択できることによる影響や制度面を企業側がどのようにカバーすべきかなど、実践するにはまだまだ課題が多いのが現状です。
そんなワーケーションを普段の働き方に取り入れるため、ワークスタイルを専門とする「オフィスコミュニケーション改善士」沢渡あまねさんが注目したのは、品川区の八潮地区。品川駅からほど近い、自然が豊かなかつのどかなこの地域を「都市型ワーケーション」のためのエリアとして活用できないか、というのです。
「休日型」と「平日型」それぞれのワーケーションの違い、そして沢渡さんの提案する「都市型ワーケーション」のエリアとして、八潮地区にはどのような魅力があるのでしょうか。
発案者の沢渡あまねさんのほか、品川区議会のあべ祐美子議員、五反田バレー代表理事の中村岳人さんを迎えて、「八潮でワーケーション」の可能性について、座談会を行いました。
八潮地区が、「平日型ワーケーション」の突破口になる?
コロナ禍の影響でリモートワークが爆発的に広がった結果、観光地へ出向いて仕事をする「ワーケーション」という働き方が注目されるようになりました。しかし、ひと口にワーケーションといっても、そこには大きくわけて2つあります。それが「休日型」と「平日型」。
▲あまねキャリア工房代表、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまねさん
一方の平日型ワーケーションの主語は「ワーク」。平日の業務時間内に出張先や観光先に出向いて働いたうえで観光しようという考え方で、この場で提唱していきたいのはこちらです。
この「平日型ワーケーション」は、会社側だけでなく旅行先の地域側にもメリットがあるんですよ。これまで観光地は消費者向けにプロモーションをするのが一般的でしたが、このやり方では競合が多すぎて、安定した利益を生み出しづらい。
そこで観光地と企業がやりとりをするようにします。業務時間に会社側がリソースを提供してワーケーションを行うようにすれば、移動先で仕事をしてついでに観光するようになる。つまり、「C(一般消費者)」向け」だった観光施策を「B(一般企業)向け」にする、という転換です。これが実現したら、企業と観光地の双方にメリットのある、サステナブルな取り組みになると思っています。
でも、この「平日型ワーケーション」には1つだけ問題があって……仕事のためわざわざ遠くまで移動するのって、面倒なんですよね(笑)。 そこで思いついたのが「都市部でもワーケーションができるのでは?」ということです。都心部でも、「普段は行かない場所にちょっと足を伸ばして、その場で働く」ことは可能なはず。
▲品川区議会のあべ祐美子議員
都心部からのアクセスは想像以上に良くて、五反田からであれば自転車でも行けると思いますよ。品川駅からバスを使えば20分程度で、1時間あれば往復できる距離感です。思い立ったら行けるのも嬉しいですよね。
▲アオサギ
「リモート疲れ」処方箋としてのワーケーション
▲株式会社Pathee Sales&Marketingグループリーダー、五反田バレー代表理事の中村岳人さん
そこで思い切って八潮まで足を伸ばせれば、家からすぐにアクセスできるし、リフレッシュできる。切り替えて作業したいときに良いと思います。
たとえば、企業をあげていっせいにリモートワーク導入した結果、一般的にリモートに向いていないような職種まで在宅で働いている、というような状況も起きているんです。いろいろな要素が合わさって、「リモート疲れ」している企業もあるのかな、と。
あとは八潮地区にリラックスして仕事ができるスペースを設けて、そこに各企業からワーケーションで働いている社員が集まるようにすれば、人と人との出会いが生まれたり、イベントを計画したりと、学びの場所としても成立するのかなと思っています。
「ワーケーションは、地方だけの取り組みじゃない」
▲資料はあべ議員作成のもの
本当であれば、八潮地区の可能性をもっと引き出すような開発を行うべきなのですが……。残念ながら、公共施設をコワーキングスペースのように使うにも、自治体が動き出すまで時間がかかるかもしれません。
実際に、地方ではすでにワーケーションの需要取り込みに向けた動きが始まっているんですよ。たとえば私は先日、浜松でテレワークをしてきました。「浜松テレワーク構想」という浜松市が進めている取り組みがあって、駐車場に停めた車の後部座席をデスクにし、広い空の下でテレワークしよう、というものですね。
「八潮」ではカタい?「やしパ」で気軽に足を運べるように
コワーキングスペースやおしゃれなカフェが増えるといいのですが……。もしやるのであれば、運河に面した緑道の脇とか、スーパー内のカフェスペースになっちゃいますね。
その「とりあえず行ける」距離感が、都市型ワーケーションをやるうえで突破口になるのかな、と。
リモートワークが浸透したとはいえ、まだまだ直接のコミュニケーションが必要な場面は多いので……。そこで、「八潮へ行ってきます」は新しい選択肢としてちょうどいいのかも。
言葉から得る印象というのはとても重要です。さくらインターネットさんでは、新しく導入した働き方改革のためのパッケージを「さぶりこ」と名付けたことで、早退したり、休暇を取得したりする社員が増えたそうです。これはネーミングがうまく行った例で、「今日は早退します」はなんとなく言い出しづらくても、「今日はさぶりこです」のほうが、心理的に言い出しやすいんです。
(文=伊藤 駿/ノオト 編集=水上アユミ/ノオト)